著者
宮城 和宏
出版者
北九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

近年、NIEsでは従来の雁行形態的な技術発展パターンから公的研究期間、海外企業、大学、地場資本が共進化するパターンがハイテク分野でみられるようになってきた。技術発展が1企業レベルでの技術移転から先進国企業との戦略提携や公的研究期間との協同研究を通じて技術成果をスピンオフするパターンに移行しつつある。本研究では、特にNIEsの中でも台湾を中心に、その技術発展過程を考察した。結論は次のようである。後発途上国の技術発展において政府の役割は重要である。途上国企業の大多数は企業規模が小さく経営資源の蓄積の度合いも低い。そのような環境で多国籍企業と交渉し技術を獲得すること、大量の資本を要し不確実性の高いR&Dに多くの資金を投じるのは困難である。政府は公的研究機関を通じて外国人からの技術導入を容易にし、多国籍企業との戦略提携を行い、共同研究開発をつうじてその成果を地場産業に拡散することができる。台湾の半導体産業はまさにそのようなケースであった。ハイテクパークを中心に立地するハイテク企業は、クラスターの形成を通じて公的研究機関、地場企業、大学、超国家的な技術コミュニティが共進化するパターンへと移行している。これは従来の雁行形態パターンからの離脱である。後発途上国は、政府の主導的な役割を通じて先進国にキャッチアップすることが可能である。ただし、これには一定の技術の受容能力が人的資源の育成を通じて蓄積されていることが必要となる。台湾についてはシリコンバレーから多くの帰国者がこれをカバーした。さらに、地場産業に対する政府のイノベーション政策もハイテク分野への直接介入から、人的資源の育成、ベンチャー企業のサポート、税制面の措置、インフラの整備等の重視へとシフトしていくことが求められる。
著者
宮城 和宏
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.105-116, 2007-03-29
被引用文献数
1

台湾,韓国は同じ東アジアNIEsの一員として,かつての労働集約的な経済から資本集約的,そして近年は技術・知識集約的な経済へと目覚しい発展を遂げてきた。それにもかかわらず,両国の技術特化のパターンやイノベーションの実態について特許等を利用した分析は非常に限られている。また数少ない先行研究における分析期間は,NBERのデータ・ベースを用いているため1999年までに限定されており,それ以降の最近の変化をフォローしていない。本稿では,米国特許商標庁(USPTO)のデータを2003年まで延長,独自に集計した上で,近年の台湾,韓国における技術特化パターンの相違点あるいは類似点や技術イノベーションの実態についての比較分析を試みる。台湾,韓国のUSPTOにおける特許登録数は,それぞれ1980年の第21位,第37位から,2003年には第4位,第5位と大きく上昇しており,世界的な技術イノベーション大国へと成長した。一方,分析結果より,両者の技術特化や技術集中度に関するパターンは,双方の産業構造やイノベーション・システムの違いより必ずしも同じではないこと,両国における技術イノベーションの主体は大きく異なること等が明らかとなった。