著者
中西 晃 東 若菜 田中 美澄枝 宮崎 祐子 乾 陽子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.125-139, 2018 (Released:2018-08-02)
参考文献数
133

林冠生物学は、生物多様性や生態系機能が局在する森林の林冠において、多様な生物の生態や相互作用、生態学的な機能やプロセスの理解を目指す学問である。林冠は高所に存在し複雑な構造を有するため、林冠生物学研究の飛躍的な進展は1980年代以降の林冠アクセス手段の発達に拠るところが大きい。様々な林冠アクセス手段の中でも、ロープテクニックを駆使して樹上にアクセスするツリークライミングは道具を手軽に持ち運べることから移動性に優れ、対象木に反復してアクセスすることが可能である。また、林冠クレーンや林冠ウォークウェイなどの大型アクセス設備に比べて経済的であるという利点が活かされ、林冠生物学研究に幅広く適用されてきた。近年では、ツリークライミングの技術や道具の発展によって安全性や作業効率の向上が図られており、今後ますます活用されることが期待されている。本稿では、ツリークライミングを用いた林冠生物学の研究例を紹介しつつ、樹上調査における林冠アクセス手段としてのツリークライミングの有用性を示す。さらに、ツリークライミングを用いた林冠生物学研究の今後の展望および課題について議論する。移動性、経済性、撹乱性に優れたツリークライミングは、場所の制限を受けないため、あらゆる森林での林冠生物学研究において今後も重要な役割を担うと考えられる。また、他の林冠アクセス手段や測定機器と併用することでさらなる進展が期待される。一方、安全かつ有効なツリークライミングが普及するためには、研究調査以外の領域も含めたツリークライミング・ネットワークの形成と情報共有のためのプラットフォームづくりが急務である。