著者
宮本 美沙子 国枝 加代子 山梨 益代 東 洋
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.206-212, 1965-12-31

この研究は子どものひとりごとについて,1.課題解決中の子どものひとりごとの発言数は,発達的にいかに変化するか。2.課題解決中そこに障害を導入すると,子どもがそれに気づいたあとひとりごとに変化が生じるか,という点を実験的に検証することを目的とした。課題としては,子どもがなじみやすく,遂行中の発言が自由でかつ実験者が困難度を統御しやすいという意味で,ピクチャーパズルおよび自由画を選んだ。子どもが課題遂行中,ピクチャーパズルでは途中で残り数片のうち3片を他のパズルの3片ととりかえ,自由画では子どもの必要としているクレパスを数本ぬく,という障害を導入した。2人を1組とし,そのうち1人を被験者として注目し,4・5・6才児計53名を被験者として実験を行なった。結果を要約すると次のようになる。1.子どもがピクチャーパズルおよび自由画という課題解決時において発した言語では,自己中心性言語が社会性言語をうわまわった。2.課題解決中の発言数は,自己中心性言語数では,5才が最も多く,4才がそれにつぎ,6才が最も少なかった。社会性言語数では年令が増すとともに減少した。3.課題解決中にそこに障害をいれると,子どもが障害に気づく前よりも気づいたあとでは,自己中心性言語が有意差をもって増加した。4.課題解決中子どもが障害に気づくと,気づく前にくらべて,自己中心性言語のうち問題解決的独語が有意差をもって増加した。問題解決的独語と非問題解決的独語との差には有意差があった。以上の結果結論を述べる。1.ひとりごとは,内言の発達における過渡的段階に生じるものとして,発言教は5才まで増大し,その後減少することが見出された。2.課題解決中そこに障害を導入すると,ひとりごとの頻度が増し,かつより問題解決指向的になることが見出された。したがって,本研究に関するかぎりでは,ひとりごとは,自分の行動を統制し,障害に対して問題解決指向的に働く機能をもつ,と結論づけることができる。
著者
宮本 美沙子 福岡 玲子 岩崎 淑子 木崎 照子 中村 征子
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.139-151,189, 1964

児童の興味を, 単に興味の種類や領域の実態をとらえるだけでなく, 条件場面を設定し, そこから展開する知的興味の種類と深さが, 児童の能力や内的成熟により, 興味の展開にどのような機能をもつて働きかけるのか, その質的なありかたを分析究明する方法を開発することを目的とした。<BR>まず, 児童の知的興味がどのような方向にあるのかを知る手がかりを得るため, 予備研究として, 小学2・3・4年児約850名を対象に疑問調査を行なつた。その結果児童の疑問の種類11項目を選出した。<BR>予備研究によつて得た項目の, それぞれの内容を代表するテーマを選び, 写真および絵により11枚の図版を作成した。小学3年児男子20名, 女子20名, 計40名を対i象に, 個人面接法により図版を提示し, 「知つているごと」「知りたいと思うこと」の2面から, 知的興味の展開を自由に口述させた。<BR>児童の知的興味の展開を, その反応を種類別に分類するのでなく, なぜ知的興味をもつに至つたのか, 児童の考えかたの展開の面から, 児童の反応の質的差異を中心にして分類し, 次の6分類項目を選出した。すなわち,(1)画面の説明 (画面に固執してそれ以上に発展しないもの),(2)自分の感情・感じていること,(2)自分の経験 (2)および(3)は, 画面からやや離れた考えかたをしていながら, 自分というわくから脱け出せないもの),(4)単に事象・現象のみをとらえた考えかた (画面から発展し, 目に見える現象や事象を, そのものの分類・性質・定義の面からとらえているもの),(5)事象・現象の原因や起る過程をとらえた考えかた (4)よりは発展しているが, まだ機能的な考えかたとしては説明不十分なもの),(6)事 象・現象を, 子どもなりに機能的にとらえた考えかた (現象を機能的に把握して考えを進めているもの) の6 分類項目が設定された。<BR>各個人のなまの反応を, 各図版ごとに上記の6つの分類項目にはめて区分整理し, 1枚の表に全貌がわかるように書きこみ, 個人の知的興味の展開が一目でとらえられるようにした。<BR>児童の反応の結果を,(1) 分類項目別, 図版別,(3) 男女別,(4) 学業成績との関係, から考察した。<BR>その結果, 小学校3年児は多くの疑問をもつており, その領域も広範囲にわたつていることがわかつた。また知的興味の展開には個人差がみられた。この年令では, おおむね物事を事象や現象の原因や起る過程をとらえた考えかたをする傾向があり, 興味の集中したテーマからみると, 知的興味の方向が社会へと拡大している姿がみられた。この研究からは知的興味における男女差はみられなかつた。知的興味の展開における発達的段階と学業成績の良さとは, 必ずしも平行していなかつた。このことから, 適切な指導と教育により, 児童の疑問や興味をとおして, 学業成績などには現われない児童の潜在的な能力をのばしうることが, 可能であるし必要であると思われる。また教科の内容のありかたを検討し, 指導の方針を考えてみることも必要であると思われる。いいかえれば, 児童の興味・関心を, より総合的, 体系的に方向づけることにより, 断片的な興味としてとどまるだけでなく, 学問的な態度へと発展させてゆく可能性もあるものと考えられる。<BR>以上の結果から, 児童の知的興味の展開をこのように質的に分析することにより, いままでに接近できなかつた角度を究明することができると考えられる。