著者
中西 昇
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.17-22,66, 1969

1)親子関係の研究に当たつては, 親の態度に関する有勘かっ操作的に定義された質問または観察項目ならびに範疇を決定することが重要である。この目的のために80名の母親に対する態度〔Radke(1936)にならう〕57項目に関する面接質問より得た結果に因子分析を行なつた。<BR>2)結果(i)第1, 権威的取扱い; 第2, 同胞不調和; 第3, 許容性; 第4, 子供らしさの奨励; の4因子が見出された。<BR>(ii)各因子間の相関係数(r)は第1と第3因子(-. 397), 第1と第4因子(-. 372), 第2と第4因子(-. 346)のみがそれぞれ有意な逆相関を示した。したがつていずれかひとっの因子から他のすべての因子の状況を推定することは不可能であり, また子供に対する親の一般的態度というものをいうことも困難である。<BR>(iii)上の各因子はFPBSによる資料に対して因子分析を行なったRoffの結果と似ているところが多い。これは本研究の妥当性を示すものといえよう。<BR>3)子供の行動特性に影響する要因としては単に子供に対する親の直接的態度のみならずその他の要因, たとえば親の人格特性, 知的水準, 社会経済階層なども考慮する必要があるように思われる。<BR>附記本研究に当たつて浅田ミツ君をはじめ教室員諸君の多大の助力を得たことを感謝する。
著者
久芳 忠俊
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.37-43,55, 1969

一般に気質とは内在的な生来性素質に関する名称であつて性格とは生来性の要素と環境との輻輳によつて獲得されたものとの結合組織化されたものであると言われている。然し吾々が日常観察する児童生徒は, どこまでが気質で, どこまでが性格だと峻別することは甚だ困難である。従つて一括して気質性格として取扱うことが妥当である。若しそのように考えないとしたならば性格陶冶とか性格教育と言われているものを否認することになる。それであるから気質性格は内在的な要因の発達や外力によつて変化するものであると言う立場から意志気質検査を 10才から14才に至る5力年間実施してその結果を要因の上から吟味したのである。<BR>(1) 要因の上から概括的に言うならば年少時では思慮を現わす要因が支配的であるのに対して運動の速度, 決断速度の要因は比較的消極的である。12才~19才頃ではどのような要因が気質性格において支配的であるかは容易に捉えることができない。従つてそれ以後の年令になつて始めて明確なものとなつてくると考えられる。<BR>(12) 類型上からは, 同一型を終始維持している場合は極めて僅少で, このTable8を算出する前に検査の各項目について整理を行つて変動を見たのであるが一定の型に嵌つたような場合は大して見られなかつたが然し低学年では比較的運動速度能力を現わす項目において変動の幅が広く, 精密細心を現わす場合が幅が小さい傾向がうかがわれ, その他拡張, 自信等では幅広い変化が見られた。また男女差を見たのであるが殆んど一致して特に著しく目立つた場合は発見されなかつた。総体的には (±0~±3) の範囲の変動が最も多く全体の75%を示している。そして (±4) の範囲より急に減少している。してみると気質性格は例え変化するとしても逐年的には幅の狭い範囲で変化するもののようである。V要約一般に気質とは内在的な生来性素質に関する名称であつて性格とは生来性の要素と環境との輻輳によつて獲得されたものとの結合組織化されたものであると言われている。然し吾々が日常観察する児童生徒は, どこまでが気質で, どこまでが性格だと峻別することは甚だ困難である。従つて一括して気質性格として取扱うことが妥当その他は各人各様で複雑である。<BR>(3)段階点の変動は (±0~±3) の範囲の場合が多数で, 従つて気質性格は狭い範囲で変化するのであつて, その小範囲の変化の累積によつて人格の或る一部を形成するものであると思われる。
著者
浜田 恵子
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.129-141,189, 1963

(1) 大衆社会といわれる今日の社会状況では, 大衆社会的職業観の浸透が著しい。この職業観は, 個人を社会状況に「適応」させるけれども, 個人が職業をとおして社会を変革するという意味での, 職業の社会的意義をまつたく無視している職業観である。しかも, 中学校の進路指導では, 大衆社会的職業観を, 問題の多い適性概念によつて, むしろ積極的にうえつけようとしている。<BR>(2) 本研究では, 各階層の中学生のもつている職業観を質問紙調査法により明らかにしようと試みた。調査対象の中学3年生を, 親の職業を指標として階層I II IIIに分類した。<BR>(3) その結果, 第1には, 中学生の職業選択の基準には階層差がみられず, その基準としては, 大衆社会的職業観に基づいた基準があげられていることが明らかになつた。たとえば, 選択基準としては, 適しているか好きか, やりがいがあるか, 収入が多いか, 収入が安定しているか, などがあげられており, また, なりたい職業と, 収入の多さ, 地位の高さ, スマートさ, らくな程度, とは相関が高い。<BR>(4) 第2には, 中学生の学歴志望と職業志望には, 階層差があり, また, 将来の生活のイメージにも, 階層差の傾向がみられた。しかし, 自己の選択職業の評価に階層差はみられなかつた。<BR>(5) さらにいくつかの事例研究により, 中学生の社会状況に対する姿勢を, 状況へむしろ積極的に「適応」しようとするタイプから, 状況に対決していく志向をもつたタイプまでの, いくつかのタイプに類型化した。<BR>(6)以上の結果から, 中学生は, 現実には, 状況へ「適応」せざるをえないために, 大衆社会的職業観によつて, むしろ積極的に状況に「適応」しようとする構えをもつているといえよう。
著者
森 重敏
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.1-11,60, 1969
被引用文献数
2

普通の1小学校における知的優秀児の検出によってその存在率を確認し,そこで試みたいろいろな調査によって,優秀児の発達的な特徴を検討した。それぞれの調査面において,少なからず知的優秀児の優位が認められたが,その他にも,傾向としてみられるかれらの優秀性が暗示された。と同時に,同等性も少なからず示された。そこには,調査法や実施面その他についての難点もいくらか反省点として見出されるのであるが,この調査を基礎として,残された次の課題,とくに性格特徴の把握へ進み・知的優秀児の本質の解明へ接近しようとするものである。付記:末尾ではあるが,本研究の遂行にあたってあたたかい御助言を賜わった山下俊郎先生,および調査実施に際して快く御協力くださった三光小学校校長遠藤五郎先生ならびに積極的に御尽力くださった外村近教諭その他の先生方に対して心から感謝の意を表したい。なお,実施に多大の労を要した諸種の検査および調査は,東京家政大学児童学研究室の上原万里子,伊藤礼子両助手の手によるものである。あわせて深謝したい。
著者
藤本 愉
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.37-48, 2005

本研究では, 療育カンファレンスにおいて, いかに療育スタッフらは〈子どもが抱える問題について語る〉という活動へとアクセスしているのか, 主に正統的周辺参加論 (Lave & Wenger, 1991) における「透明性」概念に基づいて談話分析を行った。その結果, 子どもが抱える問題を特定の「心理学的言語」 (Mehan, 1993) によって記述することは, スタッフ間の概念の共有化を円滑にする反面, 子どもが抱える問題への多元的なアクセスを制限してしまう可能性があることが示唆された。そして, 〈子どもが抱える問題について語る〉という活動へのアクセスにおいて, 問題についての語り方が異なる場合, スタッフ問にコンフリクトが生じていた。また, 療育カンファレンスにおいて, スタッフによる主観的印象と, 心理検査によってもたらされた客観的結果との間のズレという形で, コンフリクトが生じたことが明らかになった。以上の分析から, 談話理論としての正統的周辺参加論の可能性と限界点が示された。
著者
平山 るみ 楠見 孝
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.186-198, 2004
被引用文献数
48

本研究の目的は, 批判的思考の態度構造を明らかにし, それが, 結論導出過程に及ぼす効果を検討することである。第1に, 426名の大学生を対象に調査を行い, 批判的思考態度は, 「論理的思考への自覚」, 「探究心」, 「客観性」, 「証拠の重視」の4因子からなることを明らかにし, 態度尺度の信頼性・妥当性を検討した。第2に, 批判的思考態度が, 対立する議論を含むテキストからの結論導出プロセスにどのように関与しているのかについて, 大学生85名を用いて検討した。その結果, 証拠の評価段階に対する信念バイアスの存在が確認された。また, 適切な結論の導出には, 証拠評価段階が影響することが分かった。さらに, 信念バイアスは, 批判的思考態度の1つである「探究心」という態度によって回避することが可能になることが明らかにされ, この態度が信念にとらわれず適切な結論を導出するための重要な鍵となることが分かった。
著者
宮本 美沙子 福岡 玲子 岩崎 淑子 木崎 照子 中村 征子
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.139-151,189, 1964

児童の興味を, 単に興味の種類や領域の実態をとらえるだけでなく, 条件場面を設定し, そこから展開する知的興味の種類と深さが, 児童の能力や内的成熟により, 興味の展開にどのような機能をもつて働きかけるのか, その質的なありかたを分析究明する方法を開発することを目的とした。<BR>まず, 児童の知的興味がどのような方向にあるのかを知る手がかりを得るため, 予備研究として, 小学2・3・4年児約850名を対象に疑問調査を行なつた。その結果児童の疑問の種類11項目を選出した。<BR>予備研究によつて得た項目の, それぞれの内容を代表するテーマを選び, 写真および絵により11枚の図版を作成した。小学3年児男子20名, 女子20名, 計40名を対i象に, 個人面接法により図版を提示し, 「知つているごと」「知りたいと思うこと」の2面から, 知的興味の展開を自由に口述させた。<BR>児童の知的興味の展開を, その反応を種類別に分類するのでなく, なぜ知的興味をもつに至つたのか, 児童の考えかたの展開の面から, 児童の反応の質的差異を中心にして分類し, 次の6分類項目を選出した。すなわち,(1)画面の説明 (画面に固執してそれ以上に発展しないもの),(2)自分の感情・感じていること,(2)自分の経験 (2)および(3)は, 画面からやや離れた考えかたをしていながら, 自分というわくから脱け出せないもの),(4)単に事象・現象のみをとらえた考えかた (画面から発展し, 目に見える現象や事象を, そのものの分類・性質・定義の面からとらえているもの),(5)事象・現象の原因や起る過程をとらえた考えかた (4)よりは発展しているが, まだ機能的な考えかたとしては説明不十分なもの),(6)事 象・現象を, 子どもなりに機能的にとらえた考えかた (現象を機能的に把握して考えを進めているもの) の6 分類項目が設定された。<BR>各個人のなまの反応を, 各図版ごとに上記の6つの分類項目にはめて区分整理し, 1枚の表に全貌がわかるように書きこみ, 個人の知的興味の展開が一目でとらえられるようにした。<BR>児童の反応の結果を,(1) 分類項目別, 図版別,(3) 男女別,(4) 学業成績との関係, から考察した。<BR>その結果, 小学校3年児は多くの疑問をもつており, その領域も広範囲にわたつていることがわかつた。また知的興味の展開には個人差がみられた。この年令では, おおむね物事を事象や現象の原因や起る過程をとらえた考えかたをする傾向があり, 興味の集中したテーマからみると, 知的興味の方向が社会へと拡大している姿がみられた。この研究からは知的興味における男女差はみられなかつた。知的興味の展開における発達的段階と学業成績の良さとは, 必ずしも平行していなかつた。このことから, 適切な指導と教育により, 児童の疑問や興味をとおして, 学業成績などには現われない児童の潜在的な能力をのばしうることが, 可能であるし必要であると思われる。また教科の内容のありかたを検討し, 指導の方針を考えてみることも必要であると思われる。いいかえれば, 児童の興味・関心を, より総合的, 体系的に方向づけることにより, 断片的な興味としてとどまるだけでなく, 学問的な態度へと発展させてゆく可能性もあるものと考えられる。<BR>以上の結果から, 児童の知的興味の展開をこのように質的に分析することにより, いままでに接近できなかつた角度を究明することができると考えられる。
著者
阿部 健一
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.73-77, 1988

The development of 3 to 6-year-old children's orienting activity was investigated by examining the accuracy of their estimation as to whether they could jump over an object. Sixty children in each age group were put into three different conditions of jumping. In Standard Condition, the children stood in front of a white line and stepped back as far as possible from where they judged to be able to jump and then were to jump from there. In Physically Loaded Condition, the children performing under the same condition as described above except for a cushion they were to hold in their arms. In Objectively Loaded Condition, the similar procedure was employed except that the children had to jump on a 30&times;30cm-mat whithout falling out of it.Analyses of the discrepancy between their estimation and actual performance showed that (a) orienting activity developed all through the 3 to 6 year-old bracket, and (b) 6-year-old children's orienting activity was shown differenciating according to conditions.
著者
河内 清彦
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.81-90, 2001
被引用文献数
1

本研究では, 視覚障害学生及び聴覚障害学生に対し大学生が想起するイメージの意味構造を解明するため, 体育学系の男子学生108名と, 教育・社会学系の男女学生137名にイメージ連想テストを実施した。得られた2686の記述語を, KJ法により分類し, 43項目を選んだ。これらの記述語に数量化理論III類を適用し, 標的概念と記述語の重み係数により相互の関連を検討した。その結果, 障害学生の標的概念は, 障害, 性, 学科を超え,「痛ましさ」と「忍耐力」の軸に囲まれた意味空間に位置していたが, 記述語のレベルではグループ差がみられた。これらの標的概念と最もかけ離れていたのは,「好みの女子学生」と,「学力優秀な学生」の標的概念であったが, ここでは性と学科の影響が推測された。スチューデント・アパシー傾向を示す「自分自身」の標的概念は, 他の標的概念との関連はなかった。障害学生の標的概念について記述語別の出現頻数による考察を行ったが,「視覚障害学生」は努力家で強く素晴らしいが, 大変で苦しいという相反する記述語が共存していた。「聴覚障害学生」も全体的にはこれと類似していたが, 性格面では前者が暗く, 後者が明るいなど, 部分的には障害種別の違いが示された。