著者
宮村 章子 解良 武士 一場 友実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O3084, 2010

【目的】<BR><BR> 呼吸リハビリテーションでは、Rapid-shallow patternによる呼吸困難感の緩和に意識的な呼吸数の調整が行われる。これは呼吸数を減じ一回換気量を増大させることにより、肺胞換気量が増大し死腔換気率が改善するからであるが、我々は呼吸数の減少そのものも呼吸困難感と関連がある呼吸運動出力の抑制に関わっているのではないかと考えた。本研究は、呼吸数の調整が呼吸運動出力の指標である気道閉塞圧(P<SUB>0.1</SUB>)に及ぼす影響を検討することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR><BR> 健常成人10名(男性6名、女性4名、20.8±0.4才)を本研究の対象者とした。呼吸運動出力の指標としてP<SUB>0.1</SUB>を測定するために、T字状の2way-rebreathing valveにバルーン式閉塞装置を組み合わせた気道閉塞装置(Huns Rudolph、死腔量48.9ml)を用いた。気道閉塞装置の口側にはマスク(MAS0215, ミナト医科学)を接続し、マスクはストラップで被験者の顔に固定した。また気道閉塞装置のサイドポートに直径4mmのチューブを介して差圧トランスデューサー (TP-602G, 日本光電製)を接続し、気道閉塞装置の呼気側に呼気ガス分析器(AE-300S, ミナト医科学)の熱線式トランスデューサーを接続した。差圧トランスデューサーと呼気ガス分析器のアナログアウトプットをADコンバーター(PowerLab 16/sp, ADInstruments)へ接続し、それらの信号をPCに取り込んだ。呼気終末時に気道閉塞装置の吸気側に備わる閉塞用バルーンを拡張させて吸気口を閉塞し、気道内圧が陰圧に転じてから100ms後に得られる口腔内圧をP<SUB>0.1</SUB>値とした。対象者を背臥位におきマスクを装着した後、電子式メトロノームにより呼吸数を10回/分、15回/分、20回/分に調整した上で4分間呼吸を行わせた。呼吸数の調整はランダムとした。測定開始後2分後から4分後まで至適の間隔で計5回P<SUB>0.1</SUB>を測定し、その絶対値の平均値を算出した。呼吸数、一回換気量、分時換気量、呼気終末炭酸ガス濃度(P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>)は、呼気ガス分析器からの信号を波形解析ソフト(Chart Ver.5.3, ADInstruments)で解析して算出した。統計処理は反復測定による一元配置分散分析を、その後の検定として多重比較検定を行った。統計ソフトウエア-はSPSS Ver.13.0 (SPSS)を用い、有意水準はP<0.05とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR><BR> 対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。また対象者のデータは、すべて統計量として処理し、さらに暗号化されたUSBに保存して個人情報保護に配慮した。<BR><BR>【結果】<BR><BR> メトロノームに合わせて呼吸数は10.4±0.7、14.9±0.2、20.1±0.3回/分と変化し、呼吸数の増加に伴い一回換気量は1.1±0.54、0.78±0.41、0.57±0.22Lと有意に減少した(F=17.37, P=0.001)。一方、呼吸数が増加しても分時換気量は変化しなかったが、P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>は有意に減少した(F=7.44, P<0.05)。呼吸運動出力の指標であるP<SUB>0.1</SUB>値は一回換気量が減少したにもかかわらず呼吸数の増加とともに上昇し、それぞれ1.2±0.5、1.5±0.9、2.2±1.6cmH<SUB>2</SUB>Oであった(F=6.12, P<0.05)。<BR><BR>【考察】<BR><BR> 呼吸数が増加しても一回換気量が増加しても呼吸運動出力は増加しうるが、今回のように換気需要が同じであっても、呼吸数を増加させ一回換気量を減少させるとP<SUB>0.1</SUB>値は呼吸数の増加に比例して増加した。これはほぼ同じ換気量であれば、肺胸郭系の弾性抵抗の増加よりも気道系の粘性抵抗増加に対して呼吸筋が動員されやすいことを示していると考えられる。逆に呼吸数を減ずると一回換気量が増加するにもかかわらずP<SUB>0.1</SUB>値が減少することから、呼吸リハビリテーションにおける呼吸数調整によるアプローチは、呼吸運動出力の抑制の観点からも効果があると考えられた。ただし本研究の場合、呼吸数の増加に伴いP<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>が低下していることから、本来の換気需要よりもやや過換気または低換気に調節されていた可能性も考えられ、今回のP<SUB>0.1</SUB>値の増加は正当な換気需要に見合わない意識的な呼吸数増加によってもたらされた可能性も否定できない。従って呼吸数増減方法を変えて検討する必要もある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR><BR> Rapid-shallow patterに対する深くゆっくりとした呼吸パターンの効果は、主に肺胞換気量の増大や換気効率の面から述べられていた。本研究の結果から、このアプローチは呼吸運動出力の抑制の面からも呼吸困難感を減少させていると考えられた。<BR><BR>
著者
解良 武士 宮村 章子 一場 友実 下井 俊典
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2014, 2010

【目的】<BR><BR> 気道閉塞圧(P<SUB>0.1</SUB>)は横隔神経の電気活動と直線的な関係があるため、呼吸運動出力の指標として用いられている。P<SUB>0.1</SUB>は一回換気量や呼吸数の測定に比べて肺、胸郭の物理的特性に影響を受けにくいうえ非侵襲的に測定が可能なため、運動生理学や呼吸リハビリテーション分野の研究へ応用されている。しかしながらP<SUB>0.1</SUB>値は安静時であっても呼吸運動自体の揺らぎや測定誤差によって測定値にばらつきが出現するが、その測定値の信頼性については十分検討されていない。本研究はP<SUB>0.1</SUB>測定の信頼性を検討することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR><BR> 健常成人11名(男性7名、女性4名、20.8±0.4才)を対象とした。呼吸運動出力の指標としてP<SUB>0.1</SUB>を測定するためにT字状の2way-rebreathing valveにバルーン式閉塞装置を組み合わせた気道閉塞装置(Huns Rudolph、死腔量48.9ml)を用いた。気道閉塞装置の口側にはマスク(MAS0215、ミナト医科学)を接続し、マスクはストラップで被験者の顔に固定した。P<SUB>0.1</SUB>は、呼気終末時に気道閉塞装置の吸気側に備わる閉塞用バルーンを拡張させて吸気口を閉塞し、気道内圧が陰圧に転じてから100ms後の口腔内圧を測定することで得られる。気道閉塞装置のサイドポートに直径4mmのチューブを介して差圧トランスデューサー (TP-602G, 日本光電製)を接続し口腔内圧を測定し、気道閉塞装置の呼気側に呼気ガス分析器(AE-300S, ミナト医科学)の熱線式トランスデューサーを接続し、呼吸数、一回換気量、分時換気量、呼気終末炭酸ガス濃度(P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>)を測定した。差圧トランスデューサーと呼気ガス分析器のアナログアウトプットをADコンバーター(PowerLab 16/sp, ADInstruments)に接続し、それらの信号をPCに取り込みChart Ver.5.3 (ADInstruments)で解析を行った。対象者を背臥位におきマスクを装着した後、6分間静かに呼吸を行わせた。測定開始後1分後から6分後まで、30秒に1回の割合でP<SUB>0.1</SUB>を測定し、10回の測定値を得た。検者は測定に熟達した同一の1名とした。P<SUB>0.1</SUB>値はすべて絶対値で表した。信頼性の検討には級内相関係数(ICC)を用い、検者内信頼性にはICC(1,k)を用いた。ICC(1,k)は測定回数を2回より10回まで1回ずつ増加させてICC(1,2)~ICC(1,10)を、一元配置分散分析により標準誤差(SEM)をそれぞれ求めた。統計ソフトにはSPSS ver.13.0 (SPSS)を用いた。<BR><BR>【説明と同意】<BR><BR> 対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。また対象者のデータはすべて統計量として処理し、さらに暗号化して保存して個人情報保護に配慮した。<BR><BR>【結果】<BR><BR> 11名の被験者から得られたP<SUB>0.1</SUB>の平均値は0.7~4.8cmH<SUB>2</SUB>O、変動係数は16.6~50.7%であった。ICC(1,1)は0.704(95%信頼区間0.509-0.885)で、ICC(1,2)~ICC(1,10)はそれぞれ0.877、0.940、0.956、0.973、0.975、0.967、0.952、0.961、0.960(95%信頼区間0.565-0.966 ~ 0.912-0.987, SEM; 0.48-0.65)であった。目標係数を0.9とし、10回反復測定で得られるICC(1,1)から求められた予測される必要な最小反復回数は4回(3.8回)であった。<BR><BR>【考察】<BR><BR> 安静時でも呼吸数、一回換気量には変動があり、P<SUB>0.1</SUB>にも同様の現象が起こる。したがって数回の測定を行い、その平均値を代表値として用いる必要がある。今回の10回の試験で得られたICC(1,1)は0. 704(95%信頼区間;0.509~0.885)であったので1回の測定でも信頼性がある程度は確保されると考えられるが、信頼区間を考慮すると少なくとも3回以上の測定値の平均が必要と考えられる(ICC(1,3)の95%信頼区間;0.837-0.982)。これまでのP<SUB>0.1</SUB>を用いた研究は経験的に5回程度の平均値を用いるものが多かった。今回の研究では5回の測定ではSEMが0.48と大きかったものの、ICC(1,1)は0.973(95%信頼区間;0.937-0.992)、求められた最小反復測定回数は4回であったことから、これまでの5回の平均値を用いる方法は妥当だったと考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR><BR> 呼吸運動出力の指標であるP<SUB>0.1</SUB>測定は、非侵襲的で簡便な方法として従前より主に呼吸生理学の分野で用いられていた。本研究の結果から信頼性の高い測定値であるので、呼吸リハビリテーション分野での基礎研究や効果判定に応用することが可能であると考えられた。<BR><BR>