著者
下井 俊典
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11347, (Released:2018-03-20)
参考文献数
32
被引用文献数
1

【目的】本研究は我々が絶対信頼性を検討した継ぎ足歩行テストについて,新しい妥当性観にもとづいて,構成概念妥当性を検討することを目的とした。【方法】対象は介護予防事業に参加した493 名の地域在住健常成人である。5 m の継ぎ足歩行テストの所用時間を継ぎ足歩行時間(以下,TGT)とし,所要時間とミス・ステップ数から算出する継ぎ足歩行指数(以下,TGI)の2 種類のテスト値について妥当性を検討した。年齢・性によるテスト結果を比較するとともに,測定後2 年間の転倒経験を追跡調査できた66 名についてロジスティック回帰分析を用いて転倒予測に対する各因子の影響度を検討した。【結果】TGT,TGI のいずれも年齢・性による差が認められた。転倒の予測因子としてTGI が選択され,オッズ比1.06 およびカットオフ値として24.0 が得られた。【結論】TGI はより運動能力の高い高齢者のバランス能力,特にその比較的長期的な将来の転倒を予測できる評価方法であることが明らかとなった。
著者
下井 俊典
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.451-461, 2011 (Released:2011-07-21)
参考文献数
26
被引用文献数
67 27

根拠ある理学療法の確立のため,近年,理学療法評価法の信頼性を検討する報告が多くなっている.信頼性の検討方法には相対信頼性を用いるものと絶対信頼性を用いるものがある.理学療法評価法の信頼性の検討の多くは前者であるが,評価方法を臨床応用する場合,後者は前者に比べて多くの有益な情報を与えてくれる.本稿では誤差の種類について概説した後,絶対信頼性の検討方法であるBland-Altman分析及び最小可検変化量について説明する.
著者
下井 俊典 谷 浩明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.125-131, 2007 (Released:2007-04-10)
参考文献数
19

本研究では,2種類の主観評価結果との一致性により,遅発性筋痛(以下,DOMS)の評価における4種類の疼痛測定法の信頼性を検討することを目的とした。17名の被験者(21.1±1.8歳)に足関節背屈の遠心性収縮課題70回を施行し,DOMSを発生させた。1) VAS; 2) Talag scale; 3) Painmatcher; and 4) 自作疼痛スケール,の4種類の疼痛測定法を用いて,運動課題前,直後,24時間,48時間,72時間後の5回,DOMSを測定した。疼痛スケールを用いた測定と同時に,DOMSについて2種類の主観評価を行った。1つ目の主観評価として,前日に比べて当日のDOMSがどのように変化したかを,主観的変化と定義した。また2つ目の主観評価として,DOMSの左右差を主観的左右差と定義した。主観的変化についても,主観的左右差についても,Talag scaleが有意に高い一致率を示し,他の測定方法に比べて高いκ係数を示した。また,理解しやすさ,返答のしやすさについても,Talag scaleが最も評価が高かった。これらのことからDOMS評価における信頼性の高い疼痛測定法は,Talag scaleと考えられる。
著者
西城 卓也 堀田 亮 藤江 里衣子 下井 俊典 清水 郁夫 川上 ちひろ
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.23-28, 2022-02-25 (Released:2022-06-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

困難な状況にある学習者の支援は難しい. 効果的に支援することは病院・大学等の医育機関の責務の1つである. 従来は, とかく学習者に焦点が当たるバイアスがあり精神論で説得されがちであった. しかし教育現場で困難な状況にある学習者が生まれる要因には, 実は学習者の他, 教育者, 環境も挙げられる. さらに各要素を分析する際にも, 教育学・心理学・文化等からのアプローチがある. 今後は, まず, 支援者一人で複数の視点を持つことを提案したい. しかし支援者にはおかれた文脈があり, 多面的に見ることには限界がある. したがって複数の立場の, 複数の支援者が, 複数の視点をもちより, 大局的視座が担保された支援体制が医育機関には期待される.
著者
解良 武士 宮村 章子 一場 友実 下井 俊典
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2014, 2010

【目的】<BR><BR> 気道閉塞圧(P<SUB>0.1</SUB>)は横隔神経の電気活動と直線的な関係があるため、呼吸運動出力の指標として用いられている。P<SUB>0.1</SUB>は一回換気量や呼吸数の測定に比べて肺、胸郭の物理的特性に影響を受けにくいうえ非侵襲的に測定が可能なため、運動生理学や呼吸リハビリテーション分野の研究へ応用されている。しかしながらP<SUB>0.1</SUB>値は安静時であっても呼吸運動自体の揺らぎや測定誤差によって測定値にばらつきが出現するが、その測定値の信頼性については十分検討されていない。本研究はP<SUB>0.1</SUB>測定の信頼性を検討することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR><BR> 健常成人11名(男性7名、女性4名、20.8±0.4才)を対象とした。呼吸運動出力の指標としてP<SUB>0.1</SUB>を測定するためにT字状の2way-rebreathing valveにバルーン式閉塞装置を組み合わせた気道閉塞装置(Huns Rudolph、死腔量48.9ml)を用いた。気道閉塞装置の口側にはマスク(MAS0215、ミナト医科学)を接続し、マスクはストラップで被験者の顔に固定した。P<SUB>0.1</SUB>は、呼気終末時に気道閉塞装置の吸気側に備わる閉塞用バルーンを拡張させて吸気口を閉塞し、気道内圧が陰圧に転じてから100ms後の口腔内圧を測定することで得られる。気道閉塞装置のサイドポートに直径4mmのチューブを介して差圧トランスデューサー (TP-602G, 日本光電製)を接続し口腔内圧を測定し、気道閉塞装置の呼気側に呼気ガス分析器(AE-300S, ミナト医科学)の熱線式トランスデューサーを接続し、呼吸数、一回換気量、分時換気量、呼気終末炭酸ガス濃度(P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>)を測定した。差圧トランスデューサーと呼気ガス分析器のアナログアウトプットをADコンバーター(PowerLab 16/sp, ADInstruments)に接続し、それらの信号をPCに取り込みChart Ver.5.3 (ADInstruments)で解析を行った。対象者を背臥位におきマスクを装着した後、6分間静かに呼吸を行わせた。測定開始後1分後から6分後まで、30秒に1回の割合でP<SUB>0.1</SUB>を測定し、10回の測定値を得た。検者は測定に熟達した同一の1名とした。P<SUB>0.1</SUB>値はすべて絶対値で表した。信頼性の検討には級内相関係数(ICC)を用い、検者内信頼性にはICC(1,k)を用いた。ICC(1,k)は測定回数を2回より10回まで1回ずつ増加させてICC(1,2)~ICC(1,10)を、一元配置分散分析により標準誤差(SEM)をそれぞれ求めた。統計ソフトにはSPSS ver.13.0 (SPSS)を用いた。<BR><BR>【説明と同意】<BR><BR> 対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。また対象者のデータはすべて統計量として処理し、さらに暗号化して保存して個人情報保護に配慮した。<BR><BR>【結果】<BR><BR> 11名の被験者から得られたP<SUB>0.1</SUB>の平均値は0.7~4.8cmH<SUB>2</SUB>O、変動係数は16.6~50.7%であった。ICC(1,1)は0.704(95%信頼区間0.509-0.885)で、ICC(1,2)~ICC(1,10)はそれぞれ0.877、0.940、0.956、0.973、0.975、0.967、0.952、0.961、0.960(95%信頼区間0.565-0.966 ~ 0.912-0.987, SEM; 0.48-0.65)であった。目標係数を0.9とし、10回反復測定で得られるICC(1,1)から求められた予測される必要な最小反復回数は4回(3.8回)であった。<BR><BR>【考察】<BR><BR> 安静時でも呼吸数、一回換気量には変動があり、P<SUB>0.1</SUB>にも同様の現象が起こる。したがって数回の測定を行い、その平均値を代表値として用いる必要がある。今回の10回の試験で得られたICC(1,1)は0. 704(95%信頼区間;0.509~0.885)であったので1回の測定でも信頼性がある程度は確保されると考えられるが、信頼区間を考慮すると少なくとも3回以上の測定値の平均が必要と考えられる(ICC(1,3)の95%信頼区間;0.837-0.982)。これまでのP<SUB>0.1</SUB>を用いた研究は経験的に5回程度の平均値を用いるものが多かった。今回の研究では5回の測定ではSEMが0.48と大きかったものの、ICC(1,1)は0.973(95%信頼区間;0.937-0.992)、求められた最小反復測定回数は4回であったことから、これまでの5回の平均値を用いる方法は妥当だったと考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR><BR> 呼吸運動出力の指標であるP<SUB>0.1</SUB>測定は、非侵襲的で簡便な方法として従前より主に呼吸生理学の分野で用いられていた。本研究の結果から信頼性の高い測定値であるので、呼吸リハビリテーション分野での基礎研究や効果判定に応用することが可能であると考えられた。<BR><BR>
著者
亀山 顕太郎 斉藤 学 下井 俊典 岩永 竜也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P2163, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】内側型野球肘は、主としてコッキング後期から加速期にかかる外反ストレスに起因するといわれている。しかし、投球動作を繰り返しても痛みが出現する選手と、痛みが出現しない選手がいるため、この外反ストレスの影響を大きくうける不良なフォームとストレスが小さい理想的なフォームが存在することが考えられる。本研究の目的は、加速期の前腕回内・回外角度に着目し、外反ストレスに抗して働くと考えられる手関節屈筋群の筋活動量について調査し、投球時の前腕の肢位が前腕屈筋の筋活動に及ぼす影響を検討することで、理想的な前腕の肢位を明らかにすることである。【方法】対象は野球経験のある男性11名(平均年齢21.3±0.4歳)。測定肢位は、端坐位にて肩関節外転95度および最大外旋位にて肘関節屈曲90°とした。測定条件は、投球側手掌が投球側を向く加速期をイメージした前腕回内位を保持した肢位(以下:前腕回内位)と、投球側手掌が頭部を向く加速期をイメージした前腕回内回外中間位を保持した肢位(以下:前腕中間位)の2条件とした。被検者に、各条件にてひも付きのボールを把持させ、1kgの後方負荷を水平方向にかけ、5秒間保持するように指示をした。Noraxon社製Myosystem 1200を用いて、2条件で尺側手根屈筋と橈側手根屈筋の表面筋電図を導出し、安定した3秒間の筋電位について積分筋電位を求めた。なお、前腕回内位と前腕中間位の測定順番はランダムとした。統計学的手法は、各筋別の2条件間の積分筋電位について、対応のあるt検定を用い、有意水準は5%とした。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に対して研究の目的を説明し同意を得た上で、研究を行った。【結果】11名全例で、前腕中間位の方が、前腕回内位よりも尺側手根屈筋および橈側手根屈筋のiEMGが高値を示し、有意差も認められた(p<0.01)。【考察】今回の結果より、加速期での前腕中間位は前腕回内位に比べて、尺側手根屈筋および橈側手根屈筋への負担が大きい肢位であることが明らかとなった。よって、加速期に前腕が中間位であると、橈側手根屈筋および尺側手根屈筋に遠心性の収縮がより強度に起きる結果、上腕骨内側上顆への牽引・伸張ストレスが増強すると考えられる。このストレスの繰り返しが、肘関節内側の損傷および疼痛の一要因となることが推測される。また、尺側手根屈筋の筋肥大が尺骨神経の絞扼につながるとの報告もあるため、尺側手根屈筋の過収縮を起こす前腕中間位での投球は、投球動作で引き起こされる尺骨神経障害にも影響があることが考えられる。 逆に、前腕回内位では、肘への外反ストレスに対する球状の上腕骨小頭とこれに対する凹面の橈骨頭をもつ腕頭関節の骨性の支持、および、蝶番関節である腕尺関節の骨性安定機構も得られると推測する。また、外反ストレス時の安定性の保持に最も重要な役割を果たしている靭帯である内側側副靭帯前方部分も、効率的に働くため、ストレスが分散され、前腕屈筋群にかかる遠心性ストレスは軽減されると考える。しかし、肘関節の屈曲角度が70~80度では、逆に内側側副靭帯前部へのストレスが過度になってしまうとの報告もあるため、実際の臨床では、十分な肘の屈曲が得られているかも評価する必要がある。 内側型野球肘の一要因となるストレスが生じる原因は、いくつかあると考えるが、今回着目した前腕中間位での投球もその一つであることが明らかになった。【理学療法学研究としての意義】今回の結果より、加速期にて肘の内側に疼痛を訴える選手の理学療法を進める上で、投球動作中の前腕回内外角度も評価する重要性が明らかとなった。また、前腕中間位の選手には、前腕回内位を指導することで、肘関節内側へのストレス軽減につながることが示唆された。
著者
下井 俊典
出版者
国際医療福祉大学学会
雑誌
国際医療福祉大学学会誌 = Introduction of concept and background theory, and trial of reclassification about scaffolding (ISSN:21863652)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.50-60, 2019-08-20

専門職養成課程においては,教員のみならず臨床実習の指導者にとっても,学生にどう学ばせるか,学びをどう支援するかを考える上で,scaffolding は重要な学習支援方略の1 つである.しかし,特に国内のscaffolding に関する報告は言語教育領域が中心で,scaffolding の具体的実践はもとより概念も広く一般化されているとは言い難い.本稿では,scaffolding の概念とヴィゴツキーの「発達の最近接領域」を中心とした社会的構成主義を背景理論として概説するとともに,その再分類を試みた.再分類の結果として,scaffolding は目的別に①学習に向けた準備態勢を整備・調整するもの,②理解・思考・発想を支援・促進するもの,③リフレクションを促すものの3 つの大項目,および下位項目として11 の具体的実践に細分類することができた.