著者
宮林 幸江 安田 仁
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.139-146, 2008

<b>目的</b> 事故や自殺死に関する死の突然性が死別反応に影響するとされるが,突然の死に病死をも含めた比較検討はみあたらない。とくに国内に関しては,死別に関する実証的知見が不足し,死別状況による影響のみならず,群分けによる比較検討も充分になされていない。よって本研究では遺族の健康・抑うつ・悲嘆反応への死因の影響を査定していくこととする。<br/><b>方法</b> 近親者との死別を体験した親・子・配偶者・従兄弟の428人が返答し,その中から死因が記されかつメモリアルリアクション(命日反応など)を考慮した178人に対し質問紙調査を実施した。そして回答を,自殺,事故死,急性死,病死(闘病期間 1 年未満)の 4 群に分類した。各群の身体的・精神的健康については GHQ・SRQ-D により,日本人の悲嘆の情緒を主とする反応は Miyabayashi Grief Measurement (MGM)により測定した。<br/><b>結果</b> 4 群の得点順位はほぼ自殺>事故死>急性死>病死群の順となった。自殺・事故死・急性死の GHQ, SRQ-D 得点が臨床弁別閾内,または弁別域を超えた。GHQ の下位尺度である身体症状と不安不眠尺度に群間差は認められないが,不安不眠は死因に拘らず遺族全体に高得点であった。MGM では,病死と比較した自殺・事故死との間で全 4 下位尺度に群間差が認められ,自殺遺族の死別反応は,最大と判明した。その一方で下位尺度の中の適応・対処の努力(高得点ほど,実行不可の逆転の項目)では最も非力であった。<br/><b>結論</b> 死因が死別反応に影響することが確認された。とくにその影響力は健康面より悲嘆の情緒反応において顕著と判明した。
著者
宮林 幸江
出版者
宮城大学
雑誌
宮城大学看護学部紀要 (ISSN:13440233)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.33-42, 2008-03

人間は多分に科学者のような論理〜実証モードではなく、物語モードで生きているとするナラティブセラピーに注目し、言語化も文章化にもなかなか馴じまない死別経験者の人生観を木の葉、幹として、擬人化して語らせる形で生死観の確認を促し、その結果を確認することを本研究の目標とした。方法では、まず導入ストーリーを読み上げ、寓話allegoryの作成を依頼した。次いで書かれた記述の内容分析を行った。喪失の対象者は配偶者、子供、親の15人。死後経過平均1.6年(SD1.4)。死因は自殺3人。事故死1人、病死10人、不明(死産)1人であった。回答者の平均年齢は48.5歳(SD13.0)その結果、まず1。葉の思い(推測による故人の思い)として最多のコアカテゴリーは"残される者へ"と"絶望"で7割、幹の思い(遺族自身の思い)として最も多いのは、"悲しみ・孤独"と"思慕"でそれぞれが8割を越え、3.物語の展開(今後)は"再会"が6割強近く、記述では「また一つの木になろう」、「人は生まれ死んで行く」、「土に返る」、「ずっと一緒」など輪廻転生の考えを据え心の安定を図っていた。全体に逝った人々への心情を思いやり、自らの人生観をためらいなしに綴り、9割以上の参加者が、死生観をまとめあげることに成功していた。