著者
小寺 玲美 千葉 優子 田村 嘉章 宮澤 理恵子 種井 良二 森 聖二郎 井藤 英喜 荒木 厚
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.43-50, 2019-01-25 (Released:2019-02-13)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

目的:水疱性類天疱瘡は,表皮基底膜部抗体の出現により表皮下水疱を生じる自己免疫疾患である.近年,DPP-4阻害薬使用中の高齢糖尿病患者における水疱性類天疱瘡の発症報告が散見されるようになったが,どのような臨床的特徴を有するのか不明な点が多い.水疱性類天疱瘡を発症した高齢2型糖尿病患者の臨床的特徴について,糖尿病がない水疱性類天疱瘡患者と比較し検討を行った.方法:対象は2012年9月から2016年9月に,当院皮膚科にて水疱性類天疱瘡と確定診断された65歳以上の2型糖尿病患者15名(年齢81.1±5.5歳,男性11名,女性4名)および非糖尿病高齢患者20名(年齢87.7±7.3歳,男性8名,女性12名)である.発症時のADL,併存疾患,使用薬剤,および臨床経過について調査し,Wilcoxon検定及びχ2検定を用いて群間比較した.結果:2型糖尿病患者における水疱性類天疱瘡発症時のHbA1c値は7.3±1.6%であった.糖尿病患者においては,DPP-4阻害薬を15例中13例(87%)が内服しており,平均服用期間は17.7±10.7カ月であった.糖尿病患者では,非糖尿病患者と比較して男性が多く,発症年齢が若いが,一方で神経変性疾患,要介護4以上のADL低下,認知症の合併例が有意に少なかった.糖尿病患者の皮膚病変はDPP-4阻害薬を中止し,ステロイド治療を行うことで改善したが,全症例でステロイド治療に伴いインスリン治療を導入した.抗BP180NC16a抗体が陰転化した症例では,全例でDPP-4阻害薬が使用されていた.結論:水疱性類天疱瘡を発症した高齢2型糖尿病患者は,非糖尿病患者と臨床的背景が異なり,DPP-4阻害薬の使用は水疱性類天疱瘡の発症と関連している可能性が高いと考えられた.DPP-4阻害薬の投薬を中止するとともに,皮膚科と連携しながら治療を行うことで良好な治療経過が得られた.