著者
宿 玉堂
出版者
大阪外国語大学
雑誌
大阪外国語大学論集 (ISSN:09166637)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.105-115, 1993-03-25

『公孫九娘』は蒲松齢が執筆した『聊斎志異』の中の一編で、最もロマンティックで、最も評価の高い作品の一つである。清代初期に、山東省栖霞の于七とう人物の指導する農民蜂起が、清朝政府によって血の弾圧を受けたという史実を背景に、一人の若者と美しい幽霊の間の悲恋を描き出している。作者はこの怪異な悲劇を通して、清朝の支配者が無事の民を殺害した残虐な犯罪行為を読者の前に訴え、心中の悲憤を表している。本文は、『公孫九娘』の歴史的背景、人物の形象化、情景描写、言語表現等に対して拙論を述べると共に、原文に出来るだけ詳細な注釈を加えたつもりである。諸先生方の御叱正を請う。
著者
宿 玉堂
出版者
大阪外国語大学
雑誌
大阪外国語大学論集 (ISSN:09166637)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.161-179, 1997-09-30

中国明代の白話小説『水滸伝』・『西遊記』・『三国志演義』は,日本においてもあまりにも有名だが,この時代にはその他にも数多くの素晴らしい文学作品が生まれている。宋代から伝わる「話本」(講談などに使われてきた台本)を整理し,更に文学的磨きをかけた短篇小説集の数々は,当時の貴重な文学遺産の一つである。その中で最も大掛りなものが,馮夢龍の編著による「三言」(『喩世明言』・『警世通言』・『醒世恒言』)と,凌濛初の編著による「二拍」(『拍案驚奇』・『二刻拍案驚奇』)である。筆者は幼小の頃からこれらの作品に接し,愛読してきた。この度は『警世通言』の第三十二巻である『杜十娘怒沈百宝箱』に,注解を加えることを試みた。この作品の主人公杜十娘は聡明で美しい良家の娘であったが,ある事情によって不幸にも遊郭に売られていった。気丈な彼女は芸の腕を磨き,名高い遊女となったが,一日も早く遊郭を抜け出そうと考えていた。そこへ李甲とう青年が足繁く通ってくるようになり,彼女も自分の夢をこの青年に託すのだが,様々な障害にぶつかり,結局は李甲に裏切られてしまった。杜十娘は悲しみと憤激のあまり,全財産を収めた玉手箱を川底へ沈め,自分も身投げすることで無情な世の中を訴える。いわば悲恋物語である。この物語は各種戯曲の伝統的な演目となり,老若男女を問わず今もなお中国の人々に愛されている。注解はできるかぎり懇切丁寧に書いたつもりなので,中国語を専攻している学生諸君及び中国文学の愛好家の方々に,注解を頼りに原文を一読していただければ,この上ない幸せである。
著者
宿 玉堂
出版者
大阪外国語大学
雑誌
大阪外国語大学論集 (ISSN:09166637)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.83-95, 1996-02-29

AABB重畳形式は、現代中国語の中にしばしば登場して来る言語形式の一つで、文学的表現に色を添えている。従って多くの研究者によって研究対象として取り上げられ、優れた論文も少なくない。ところで、近代中国語においてAABB重畳形式はどのように活用され、どのような特徴を持ち備えているのだろうか。それは大変趣味深いテーマであり、研究に値する課題であると筆者は考える。数年前、筆者は『「三言」「二拍」に於けるAABB重畳形式』という試論を記し、5部の短編白話小説集に出て来るAABB重畳形式に対して分析を試みたが、今回は『水滸伝』『金瓶梅』及び『西遊記』等の長編白話小説におけるAABB重畳形式を考察し、概括・分類を試みることにした。尚、それらの構文的な役割も同時に探ってみることにした。また古文の範疇である『詩経』及び宋玉、司馬相如の賦を考察した幾つかの例も、「前書き」のなかに収めておいた。AABB重畳形式の根源に遡ってみたかったからである。筆者の研究不足のため文中に至らぬ点が多々あろうかと思うが、諸先生の叱正を乞う次第である。