著者
杉内 智子 佐藤 紀代子 浅野 公子 杉尾 雄一郎 寺島 啓子 洲崎 春海
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.12, pp.1126-1134, 2001-12-20
被引用文献数
17 8

軽度・中等度難聴児の現況を調査し, 問題とその背景について考察した.<BR>対象は補聴器外来にて聴覚管理を行ってきた軽度・中等度難聴児30人である.<BR>全体象例について, 難聴を疑った時期と診断の時期, 補聴器の装用開始時期, そして補聴器の使用状況を調査し, 24人に知能検査 (WISC-III) を行った. また, アンケートを用いて, 児の聴取状況および児の「きき返し」に関する母親の意識と対応について調査を行った.<BR>難聴を疑った時期は平均2歳10ヵ月と遅く, その診断は平均4歳2ヵ月, 補聴開始は平均5歳3ヵ月と, 難聴を疑いながらも診断, 補聴がさらに遅れる傾向があり, また補聴器を有効に活用できていないと考えられる児がみられた. WISC-IIIを行った24人のうち14人は, 言語性IQが動作性IQより15以上低く, 言語発達に遅れがみられた. これら言語発達の遅れと, 聴力レベル, 難聴の診断および補聴器開始時期との関連は見出せなかったが, その背景として, 定着していない補聴器装用状態と, 帰国子女, 両親がろうであるなどの言語環境, すなわち音声コミュニケーションの質と量の問題が関与していることが示唆された. また, 母親は児のきき取りの状態を気にかけてはいるものの, 児からの「きき返し」には"くり返す"以外, ストラテジースキルを導くような対応は少なく, 意識していても対処する術を知らないという現実がうかがえ, この傾向は言語発達に遅れのある群で顕著であった.<BR>小児難聴は早期発見が不可欠である. 同時に, とくに軽度・中等度難聴児においては, 聴覚障害を適正に認識, 受容できるような指導, 補聴の定着, そしてコミュニケーション指導が重要である.