著者
佐藤 紀代子 杉内 智子 城本 修 杉尾 雄一郎 熊川 孝三
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.78-86, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
15

要旨: 音声コミュニケーションを用いた指導方法で療育を行った中等度・高度難聴群と重度難聴群の音声コミュニケーションの発達経過, および言語力の経緯を長期にわたって検討した。対象は, 指導を行った124例のうち生後5~6か月で補聴器装用を開始し, 聴覚以外に明らかな障害および聴力の変動・低下がなく, 中耳・内耳に異常を認めなかった6症例であった。本指導のねらいである5段階 (①発声模倣, ②単語模倣, ③2語連鎖模倣, ④肯定/否定意思選択, ⑤5W1Hの完成) における発達段階を比較, 検討した。結果, 重度群は平均2歳2か月で人工内耳手術を行ったが, 最終段階に到達するまでに中等度・高度群と比較すると1年4か月以上の遅滞がみられた。しかし, 10歳時の VIQ の結果は両群ともに同程度の結果となった。また, 健聴児の言語発達と比較すると, 明らかに聴覚障害が初期の音声コミュニケーションの発達に影響を及ぼすことが示された。聴覚障害児の音声コミュニケーションと言語の発達のために長期的な観察と個別化療育・医療が必要であることを示唆した。
著者
杉内 智子 佐藤 紀代子 浅野 公子 杉尾 雄一郎 寺島 啓子 洲崎 春海
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.12, pp.1126-1134, 2001-12-20
被引用文献数
17 8

軽度・中等度難聴児の現況を調査し, 問題とその背景について考察した.<BR>対象は補聴器外来にて聴覚管理を行ってきた軽度・中等度難聴児30人である.<BR>全体象例について, 難聴を疑った時期と診断の時期, 補聴器の装用開始時期, そして補聴器の使用状況を調査し, 24人に知能検査 (WISC-III) を行った. また, アンケートを用いて, 児の聴取状況および児の「きき返し」に関する母親の意識と対応について調査を行った.<BR>難聴を疑った時期は平均2歳10ヵ月と遅く, その診断は平均4歳2ヵ月, 補聴開始は平均5歳3ヵ月と, 難聴を疑いながらも診断, 補聴がさらに遅れる傾向があり, また補聴器を有効に活用できていないと考えられる児がみられた. WISC-IIIを行った24人のうち14人は, 言語性IQが動作性IQより15以上低く, 言語発達に遅れがみられた. これら言語発達の遅れと, 聴力レベル, 難聴の診断および補聴器開始時期との関連は見出せなかったが, その背景として, 定着していない補聴器装用状態と, 帰国子女, 両親がろうであるなどの言語環境, すなわち音声コミュニケーションの質と量の問題が関与していることが示唆された. また, 母親は児のきき取りの状態を気にかけてはいるものの, 児からの「きき返し」には"くり返す"以外, ストラテジースキルを導くような対応は少なく, 意識していても対処する術を知らないという現実がうかがえ, この傾向は言語発達に遅れのある群で顕著であった.<BR>小児難聴は早期発見が不可欠である. 同時に, とくに軽度・中等度難聴児においては, 聴覚障害を適正に認識, 受容できるような指導, 補聴の定着, そしてコミュニケーション指導が重要である.
著者
佐藤 紀代子 杉内 智子 城本 修 辛島 史織 根岸 歩
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.290-298, 2019
被引用文献数
1

<p>要旨 : 中等度難聴者4名を対象として, 聞こえにくさと聴覚障害の意識について半構造化面接を用いて検討し, 当事者の視点で分析した。面接の叙述から中等度難聴者の聞こえにくさと聴覚障害の意識に関する30種の概念がコード化され, 聞こえにくさと対処法, 聴覚障害の意識の変容について個別の経緯を検討した。語音聴取が良好でも他愛無い雑談などの聴取に困難を感じており, 会話方略の使用, 自らの情報収集などによって対処していることに共通点を認めた。また, 聴覚障害への意識は個々の成育歴や環境によって異なっていたが, 共通して聴覚障害の受容よりも否定的な意識の方が多く, どのようなライフステージにおいても常に聴覚障害の受容, および否定的な意識が混在していることが示された。当事者の発達段階に応じて医療や教育の場において情報提供することや, 当事者が障害を開示し社会に配慮を求める姿勢を形成するなど, 長期的な支援の必要性が示唆された。</p>