著者
寺本 吉輝
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

観測装置は宇宙線検出器用のガス封入型高抵抗板検出器(レジスティブ・プレート・チェンバー)と宇宙線のトリガー,波高値,到来時間などを測定する回路ボックス,全体をコントロールするパソコンなどから構成される.このうち最も困難な部分はガス封入型高抵抗板検出器の開発であった.高抵抗板検出器には二つの動作モードがあり,それぞれストリーマモードとアバランチモードと呼ばれている.我々はこの両方についてテストチェンバーを作りガスを封入してまず動くかどうか,それにさらにどの程度の寿命があるかどうかを調べた,ストリーマモードはアルゴン,イソブタン,テトラフルオロエタンの混合ガスを用いた,その結果1年間以上にわたり95%程度の検出効率を維持し,波高値,などにこれといった変化は見られなかった,しかしその後劣化がみられ,600日目の測定のころに接着剤の剥離が見られた,一方アバランチモードの信号はストリーマモードより二桁大きさが小さく,電極やガスに対する負担が少ないと考えられる,アバランチモードのテストチェンバーはストリーマモードのチェンバーより後に作ったためテスト期間が短いが,1年以上にわたって安定した検出効率を維持している.アバランチモードの方が信号が小さくチェンバーに対する負担が少ないので,本番用のチェンバーをアバランチモードで作った.本番用チェンバーはテストチェンバーの数倍の大きさがあり,信号電極が大きいためノイズが大きくそのままでは使えないことがわかり,信号電極を6分割すればノイズが落ちることがわかった.この本番用チェンバーは現在までに6台つくっている.これを戸外で雨風を防ぐステンレスのケースにいれて配線すれば一応完成であるが,現在完成までには達していない,回路ボックスの方は安価なコンポーネントの使用や,信号波高回路をマルチプレクスして1chで4ch分読み出せるようにするなどをしてコストをさげた,こちらのほうはすでに完成している.
著者
寺本 吉輝 中野 英一
出版者
大阪市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

広い範囲に降ってくる宇宙線を観測するための宇宙線観測ネットワークを構築した,観測装置は4台のシンチレーション検出器がら構成されるものを学校や科学館の屋上に置き,そこで検出された宇宙線空気シャワーをパソコンに取り込み,インターネットで大阪市立大学のサーバーに送って,そこから各サイトに観測データを配送するシステムを作った,これを連続的に稼動させて長期連続観測を始めた,いままで高校のネットワークはファイヤーウォールにさえぎられ,高校からデータを発信することが出来なかったが,大学にハイパーテキストトランスポートプロトコル(HTTP)のサーバーを置いてこれに対して高校側から交信することにより,高校からデータ発信が出来るようになった.宇宙線がこの装置で検出される頻度は各サイトあたり1分間に3現象程度であるので,全部のサイトを合わすと1年間に1000万現象ほどになる.現在までに取ったデータを解析した結果,ネットワークを通してデータ収集してもバイアスなくデータが取れていることが確認された.また2つのサイトで同時にくる現象を調べたところ,現在の統計精度では明確な現象の過剰は見られない.3つのサイトで同時にくる現象については,姫路高校と大手前高校と科学館に来た宇宙線現象のなかに1ミリ秒以内に来たものがあり,これはランダムに宇宙線が来ると仮定した場合よりも統計的に有意に多い,今後観測をつづけて統計的有意性をさらに高めたい.高校生の理科への興味を高めるための活動としては,高校への訪問・講義,高校の文化祭への出展,などを行った,高校での主な活動は科学クラブによるものである,また総合教育のテーマにも取り上げていただく予定をしている.また,高校の科学クラブが活動の一環として,大学と共同で宇宙線観測を行っていること自体が高校生にとって励みになると考えられる.現在の装置は値段が高いので,将来に向けて値段の安い装置を作る開発をはじめた.特にシンチレージョン検出器は高いので,これにかわる高抵抗板検出器を試作して,これが実用的に使えるかテストしている.この開発での最大の問題はガス封入型高抵抗板検出器の寿命である.現在までのところ1年程度は問題なく使えている.