著者
遠藤 秀紀 小原 巌 吉田 智洋 九郎丸 正道 林 良博 鈴木 直樹
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.531-538, 1997-07-25
被引用文献数
8 16

国立科学博物館に収蔵されているニホンオオカミ (Canis hodophilax TEMMINCK 1839)の頭骨3例を用いて骨計測学的検討を行い, 秋田犬との比較を試みた. また, CTスキャンを用いてニホンオオカミの頭蓋骨, 特に前頭骨領域の内部形態を非破壊的に観察したので報告する. 骨計測の結果, ニホンオオカミと秋田犬では最大頭蓋長に有意差はなく, 同サイズの集団間比較を行っていることが確認された. 一方, 最小前頭幅と両眼窩間最小距離の最大頭蓋長に対する割合は, ニホンオオカミで有意に小さく, 同種の前頭骨の発達が悪いことが示唆され, 前頭骨の平面観と側面観からも同様の結果が得られた. しかし, ニホンオオカミにおいてこれまで注目されてきた下顎第一後臼歯長の最大頭蓋長に対する比率には, 二者間で有意差は見られなかった. CTスキャンによる傍正中断像では, ニホンオオカミの前頭洞は, 発達の悪い前頭骨に応じて狭く, 特に背腹方向ヘ圧縮されていることが明らかになった. また, 三次元腹構の結果, 複雑な櫛板の構造が確認された. ニホンオオカミは, 1905年以来捕獲例のない絶滅種である. 今後, 残された標本をCT観察し, 同種の呼吸および嗅覚機能に関する検討を進めることが期待される.