著者
小坂 那緒子 熊野 善介
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.83-96, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
22

高等学校学習指導要領の理科の目標では,「探究」という言葉が使われ,理科教育の中で探究的な授業形態が求められているものの,高等学校理科における探究活動の研究報告は少ない。高等学校生物の教科書には,確認実験が多く,酵素分野で見られるヒトの体温付近を最適温度とする酵素であるカタラーゼとアミラーゼの実験も,得られる結果は生徒の予想を大きく覆すものではない。本研究では,ヒトや哺乳類以外の生物で手に入りやすいウミホタルを酵素分野で実験教材として活用した場合,どのような実験結果が得られるかを調べるとともに,高校生を対象とした授業実践を行い,生徒の考察を調べることにした。乾燥ウミホタルをすりつぶし,異なる温度の水を加えたところ,氷水を加えたときに最も強く,長時間の発光が観察された。本教材を用いた授業実践では,生徒は,ウミホタルは体温付近で強く光ると予想し,予想に反した結果は生徒を驚かせ,多様な考察を生んだ。また,一人で考察するよりも,他の生徒の発表を聞いて考察する方が,より実験結果を正確に説明できるようになるということが明らかとなった。ウミホタルは単なる生物発光を伝える実験教材ではなく,生徒を対話的に深く思考させる探究的な実験教材として提案できる。