- 著者
-
小塚 裕介
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2007
本研究は酸化物薄膜のバルクにはない構造制御性を利用し、酸化物ヘテロ構造中に非自明な電子的・磁気的構造を実現し磁気輸送特性を用いてその起源を解明することである。本年度は、チタン酸ストロンチウム単結晶基板上にパルスレーザー堆積法を用いて二次元界面を作製し、界面での伝導特性を評価した。特に高磁場での磁気抵抗に注目し界面での電子の量子伝導性に注目した。まず、ドープされていないチタン酸ストロンチウム上に電子ドープチタン酸ストロンチウム薄膜を堆積し、最後にキャップ層としてドープされていないチタン酸ストロンチウムを堆積させた。この構造に対し電気抵抗の温度依存性を測定すると、非常に良い金属伝導を示し、さらに0.3K付近において超伝導を観測した。超伝導臨界磁場測定を行うことにより、ドープ層の厚さを変化させると、超伝導が二次元から三次元に転移していることがわかった。次に、高磁場を印加し磁気抵抗を測定すると、量子伝導を示唆するシュブニコフ・ドハース振動を観測された。さらに、試料を磁場に対して回転させてシュブニコフ・ドハース振動を測定すると、その周期は磁場の試料に垂直成分のみに依存しフェルミ面が二次元的であることを示している。このように超伝導を示す物質でその常伝導状態が高移動度二次元フェルミ面から成っている物質の観測は初めてである。以上の結果は、酸化物の多彩な物性を組み合わせてヘテロ構造を作製することによって可能となった。今回の成果は酸化物におけるメゾスコピック系という新しい分野の先駆的研究である。