著者
小山 泰宏 葛山 元基 岡崎 久美 高村 隆 岡田 亨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O3055, 2010

【目的】<BR>臨床において,上腕三頭筋のMMT( Danielsら)での筋力は問題ないにも関わらず,肩関節挙上動作で肘関節伸展が困難な例を少なからず経験する.また上腕三頭筋内側頭,外側頭は,いわゆる単関節筋であり二関節筋ではないにも関わらず,肩関節挙上角度の違いで筋出力が異なることもしばしば経験する.そこで我々は,以下の2つの仮説をたてた.1)上腕三頭筋内側頭,外側頭は肩関節挙上位では筋出力に乏しい.2)上腕三頭筋内側頭は,特に肩関節内転方向かつ伸展方向に筋出力が高くなる.本研究の目的は,上記2つの仮説を検証するため,肩関節肢位の違いにおける上腕三頭筋内側頭,外側頭の筋活動を筋電図学的に検討することである.<BR>【方法】<BR>対象は,健常人男性21名(平均年齢26.29±3.1歳,平均身長171.63±4.9cm,平均体重66.27±8.1kg)の両側上肢42肢である.方法は,肩関節挙上角度が異なる6肢位で,前腕が常に重力に抗した肘関節伸展運動を伸展-20度まで行い,等尺性収縮による表面筋電図を3回測定した.また負荷は1kg重錘とした.測定6肢位は,すべて前腕回外位で前額面挙上4肢位(最大屈曲位,90度屈曲位,0度位,伸展20°位),矢状面挙上2肢位(最大外転位,90度外転位)とした.測定筋は,上腕三頭筋内側頭,外側頭,三角筋後部線維,棘下筋の4筋とした.測定機器は,Noraxon社製表面筋電図(Myosystem1400)を使用し十分な皮膚処理後に電極を貼付した.解析区間は,等尺性収縮5秒間の内,2~4秒の3秒間とした.また各筋の平均活動を算出し,3回測定の平均値を求め,DanielsらのMMT3遂行時の平均筋活動で除して標準化(%RVC)を行った.統計学的処理は,SPSS ver12.0を使用しFriedman検定を用い,その後の検定としてWilcoxonの符号付順位検定にて多重比較を行った.得られたP値についてはExcel上でBonferroniの不等式による修正を行い有意水準5%とした.<BR>【説明と同意】<BR>本研究は,船橋整形外科病院倫理委員会の承認の後に行われた.被験者に対しては,本研究における測定内容,又,皮膚処理時のリスクについての十分な説明を行い,同意を得られた対象のみ測定を施行した.<BR>【結果】<BR>肩関節肢位の違いと各筋の%RVC<BR>1)上腕三頭筋内側頭:平均値は最大屈曲位7515±38.5<最大外転位89.85±48.4<90度屈曲位101.0±52.5<90度外転位128.8±44.2<0度位211.1±134.5<伸展20度位212.55±135.6の順に高値を示した(P=0.000).多重比較の結果は,90度屈曲位‐最大外転位,0度位‐伸展20度位の間には有意差は認めなかったが,その他においてはすべて有意差を認めた.(P<0.05)<BR>2)上腕三頭筋外側頭:平均値は90度屈曲位78.0±31.7<最大屈曲位97.8±47.7<90度外転位107.46±39.4<最大外転位144.26±75.4<0度位149.54±81.6<伸展20度位184.45±81.6の順に高値を示した(P=0.000).多重比較の結果は,最大屈曲位‐90度外転位,0度位‐最大外転位の間には有意差は認めなかったが,その他においてはすべて有意差を認めた.(P<0.005)<BR>3)棘下筋:平均値は90度屈曲位82.27±37.0<90度外転位29.44±21.0<0度位36.62±26.3<伸展20度位40.18±32.1<最大外転位45.53±16.5<最大屈曲位82.27±37.0の順に高値を示した(P=0.000).多重比較の結果は,最大屈曲位‐その他の肢位の間,また最大外転位-90度屈曲位,90度外転位の間に有意差を認めた.(P<0.05)<BR>【考察】<BR>今回の結果から,上腕三頭筋訓練として行われている肩関節挙上位での肘関節伸展訓練は,上腕三頭筋内側頭,外側頭の筋出力に乏しく,棘下筋を主とした肩関節外旋筋の筋出力が高くなることが示唆された.また上腕三頭筋内側頭については,肩関節内転かつ伸展方向に筋出力が高値を示すことが示唆された.肩関節挙上位の動作で上腕三頭筋内側頭の機能改善を促す場合には,上腕三頭筋内側頭の筋機能を十分に理解した上で反復した運動学習を行うことが重要となると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>関節可動域改善や筋力改善を促す際,筋連結に伴う効果は未だ不明なことが多い.健常人における肩関節肢位の違いによる上腕三頭筋内側頭、外側頭の筋活動を理解することは,肘関節エクササイズを施行する上で,単関節筋における筋機能を効率的に改善できると考える.
著者
葛山 元基 小山 泰宏 岡﨑 久美 高村 隆 岡田 亨
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O1105-C3O1105, 2010

【目的】<BR>臨床において,上腕三頭筋のMMTでの筋力は問題ないにもかかわらず,投球障害肘や離断性骨軟骨炎を有する野球選手において肘関節の伸展が困難な例を少なからず経験する.我々は,上腕三頭筋内側頭,上腕三頭筋外側頭は伸展・内転方向に従って筋出力が高くなること,また,肩関節挙上角度が増すに従い筋出力が小さくなることを示した.そこで,本研究では,野球経験(中学・高校の部活動レベル以上)の有無により,肩関節肢位の違いにおける上腕三頭筋内側頭,外側頭の筋活動に変化があるかを検討し,また競技に伴う特徴的な筋活動があるかを筋電図学的に検討することである.<BR>【方法】<BR>対象は肩・肘関節に手術歴・可動域制限がなく,日常生活において疼痛のない健常人男性21名(平均年齢26.3±3.1歳,身長171.6±4.9cm,体重66.3±8.0kg)であり,内訳は野球経験のある9名の投球側,非投球側,野球経験のない12名の利き手(コントロール側)の3群とした.<BR>肩関節の挙上角度が異なる肢位において,1kgの重錘を負荷とし,前腕が常に抗重力位になる肢位を基本肢位とした.基本肢位から肘伸展運動を行い,肘関節伸展-20度での等尺性収縮を表面筋電図にて測定した.測定筋は上腕三頭筋内側頭,上腕三頭筋外側頭,棘下筋,三角筋後部線維の4筋である.測定機器は,Noraxon社製表面筋電図myosystem1400を使用し,十分な皮膚処理後に電極を貼付した.測定肢位は,解剖学的肢位を基準として,前額面上4肢位(肩関節最大屈曲位,屈曲90度位,屈曲0度位,伸展-20度位)と,矢状面上2肢位(最大外転位,外転90度位)の計6肢位で行った.解析区間は,等尺性収縮5秒間の内,2~4秒の3秒間とした.また,各筋の平均を算出し,3回測定の平均値を求め,DanielsらのMMT3遂行時の平均筋活動にて除して標準化(%RVC)を行った.統計学的処理は,SPSSver12.0を使用し,2元配置分散分析(多重比較法:Tukey法)を用いて投球側,非投球側,コントロール側の3群と肢位別での比較を行い,有意水準は5%とした.<BR>【説明と同意】<BR>本研究は,船橋整形外科病院倫理委員会の承諾を得た後に行われた.被験者に対しては,本研究における評価内容,皮膚処理時のリスクについて十分な説明を行い,同意を得た対象のみ測定を施行した.<BR>【結果】<BR>肩関節挙上角度と角筋%RVC<BR>a上腕三頭筋内側頭について<BR>投球側,非投球側,コントロール側の3群による筋活動は共に投球側が有意に高い結果となり(P<0.01),平均値は,最大屈曲位において投球側94.5±40.5,非投球側66.5±28.3,コントロール側67.5±36.8,最大外転位では投球側101.5±55.8,非投球側83.5±45.6,コントロール側84.8±43.1であった.肢位においては,伸展20度位242.9±152.1,0度屈曲位218.9±150.1,90度外転位138.4±42.5,90度屈曲位105.1±56.6,最大外転位82.6±49.2,最大屈曲位80.5±38.2の順で高値を示した(P<0.01).<BR>b.棘下筋について<BR>投球側,非投球側,コントロール側の3群による筋活動に有意な差は見られなかった(P=0.94).肢位による違いでは,最大屈曲位74.1±35.4,最大外転位46.8±15.3,伸展20度位38.1±18.7,屈曲0度位28.4±15.6,90度屈曲位24.2±14.1,90度外転位24.1±18.7の順で高値を示した(P<0.01)<BR>【考察】<BR>棘下筋の筋活動は挙上角度が増すにつれて優位に高くなっていたが,投球側,非投球側,コントロール側の3群においての有意な差は見られなかった.我々は,上腕三頭筋の筋活動は内転方向かつ伸展方向で高値を示すこと,挙上角度や外転角度が増すにつれて低値となることを示したが,野球経験者においては投球側の筋活動が非投球側,野球未経験者であるコントロール側より大きく,挙上位での上腕三頭筋筋活動は繰り返しの投球により運動学習されたものであることが示唆された.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>野球経験者の上腕三頭筋内側頭の筋活動は反復された運動学習によって獲得されたものであると考えられた.そのため,投球障害肘や離断性骨軟骨炎を有する野球選手の治療の一手段として腱板機能改善と共に挙上・外転位での上腕三頭筋の筋収縮を促し,運動学習をさせることは競技復帰への重要な要素であると考える.