- 著者
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小川 日出丸
- 出版者
- 宝石学会(日本)
- 雑誌
- 宝石学会(日本)講演会要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.40, pp.14, 2018
<p>宝石質ブルーサファイアの産地はいくつかあるが、もっとも重要な産地のひとつとしてインドシナ地域がある。</p><p>タイ、カンボジアそしてベトナムでは 12~6Ma と 3~0.5Ma をピークに玄武岩活動が活発化したとされている。前期には多量のソレアイト玄武岩の噴出が広域でおこり、溶岩台地が形成された。後期ではアルカリ玄武岩の噴出が限定的小規模な地域でみられた。重要なことに、このアルカリ玄武岩によってルビーサファイアが地表に運ばれたことである。</p><p>その後、長年にわたって玄武岩の風化・漂流作用により、山地、平野部や河川に玄武岩に包まれていたルビーサファイアが残留・漂砂・体積されていった。現在、インドシナ各地にルビーサファイアの宝石鉱床の存在が報告されている。</p><p>カンボジアではルビーサファイアの宝石産地として首都プノンペン西方のチャムノップ、北方のパムテメイ、プノンチョンなどがあるが、最も著名な産地としてパイリンがあげられる。</p><p>パイリンは、プノンペンの北西約 400kmほどの距離にあるタイ国境の地域である。街中心からタイ国境までは 10kmあまりで、国境地帯は山地地帯となっている。</p><p>20 世紀末の内戦時は、宝石という財源をおさえるため、ポルポト派が最後まで存在していた地域のひとつである。そして国境をまたいで、タイの宝石産地であるチャンタブリ~トラートに隣接している。パイリンでは宝石の採掘場として以下の形態がみられた。</p><p>①国境地帯の山地</p><p>②火山岩が露頭する独立丘陵</p><p>③平野部の田園地帯</p><p>④南部の山地より流れ出る大小の河川</p><p>一部の鉱区では動力機器を使用した採掘も存在するが、多くはスコップや棒を使用した人力に頼った小規模なものが多い。手工業採掘は深度5m以浅の採掘のみ許可という規則があるため、深い縦穴は見られなかった。</p><p>パイリン産ブルーサファイアの濃色石には通常、加熱処理による色の改善(明るい色調へ)がおこなわれている。そこで今回、現地で入手した試料に加熱処理を施して色の変化と、紫外可視、赤外部の分光スペクトルの変化について観察した。</p><p>青色は Fe<sup>2+</sup>-Ti<sup>4+</sup>によるが、パイリン産は Fe-rich のため Fe<sup>3+</sup>、 Fe<sup>2+</sup>-Fe<sup>3+</sup>、 Fe<sup>3+</sup>-Fe<sup>3+</sup>による吸収が大きく、これらが暗色の原因といえる。また通常光と異常光方向の色調の差が大きいのが特徴である。加熱処理による淡色化に伴い、透過率や吸収ピークに変化がみられた。赤外領域では、 OH 吸収がほぼ消失した。</p><p>それらの結果と、パイリンの採掘状況について報告する。</p>