- 著者
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小川 栄一
- 出版者
- 武蔵大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2018-04-01
研究代表者は、2012年度より「江戸語・東京語におけるコミュニケーション類型の研究」のテーマで科研費の交付を受け、現在は2018年度から第2回目の交付を受けている。2019年度における研究実績は次の2点である。(1)式亭三馬『浮世風呂』データベースの作成上記の談話分析を近世後期江戸語資料にも適応すべく、その基礎的な作業として『浮世風呂』データベースをコンピューター上に作成している。『浮世風呂』中の会話を句単位で区切った上で、話し手、聞き手、会話のタイプ、ストラテジーなどの情報を付加して、検索や集計が容易にできるようにしている。近い将来に公表することも予定している。(2)『浮世風呂』における敬語使用の特徴上記データベースを用いて、『浮世風呂』における敬語使用は、主として品格保持のために行われているという予測を立てている。その理由は、『浮世風呂』における敬語は、尊敬語・謙譲語の使用率が低く丁寧語・美化語の使用率が高いこと、年齢の上下関係に基づく使用(年長者には敬語を用い、年少者には用いないということ)とは明確には断言しにくいこと(たとえば、年少者に対する敬語使用が中層・上層では多いこと、完全に上下関係によるものであれば年少者に対する敬語使用はもっと少ないはずである、敬語使用は階層が高くなるほどその率が高くなる傾向が顕著であること、女性の敬語使用率が男性よりも高いこと)などの傾向があるからである。すなわち、『浮世風呂』では階層の高い人物や女性における敬語使用率が高いのであって、年齢や身分の上下関係においては明確な傾向が出ないことから、上下関係に基づく敬語使用よりも、品格保持のために敬語が使用される傾向が顕著と考えられる。これは江戸市民の高い意識に基づくものと考えられる。この結果を数値化した上で、近日中に論文として公表すべく執筆にとりかかっている。