- 著者
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小布施 秀明
- 出版者
- 一般社団法人 日本物理学会
- 雑誌
- 日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.1, pp.14-24, 2015-01-05 (Released:2019-08-21)
金属を極低温まで冷やすと,電子が不純物などにより散乱され,その散乱波同士が量子干渉を起こすことにより,電子が空間的に局在し,絶縁体となる.アンダーソン局在として知られるこの現象の研究は,1958年のP. W. Andersonによる理論予測から幕を開けた.それから半世紀が経った現在,物性物理学におけるアンダーソン局在,そしてアンダーソン転移の重要性は一段と増している.このことは,近年,その存在が明らかとなった新規物質であるグラフェンやトポロジカル絶縁体における不純物効果に関する数多くの理論・実験研究が行われていることからも明らかである.特にトポロジカル絶縁体・超伝導体を分類する10種類のクラスは,アンダーソン転移の対称性クラスそのものであるなど,トポロジカル絶縁体の研究発展に対してアンダーソン転移の研究が果たした役割は大きい.さらに,アンダーソン局在の本質は干渉効果であるため,物質中の電子に限らず,近年,冷却原子,光,弾性波などの新たな系における実験も行われるようになった.これらの新しい実験では,従来,困難であったアンダーソン転移における臨界指数の実験的評価も可能である.このように,アンダーソン局在・転移の研究分野は,今なお拡大し続けている.本解説では,アンダーソン局在・転移のこれまでの研究発展を振り返ると共に,最近の実験・理論研究の新たな展開について紹介する.アンダーソン転移に関する過去の研究を振り返ると,この転移が2次相転移として理解できることを提示した,1979年のスケーリング理論に触れないわけにはいかない.スケーリング理論は,空間次元が2以下では,電子は温度ゼロの極限で必ずアンダーソン局在するという重要な結論も導く.しかし,この結論は全ての2次元不規則電子系に対して成立するわけではない.スケーリング理論に反し,2次元でアンダーソン転移が起こる系として,スピン軌道相互作用の強い系や量子ホール効果を示す系が挙げられる.これらの系に対して,スケーリング理論で見落とされている点を考えると,系の持つ対称性やトポロジカル項など,今日の物性物理において重要なコンセプトが現れてくるのは興味深い歴史的事実である.アンダーソン転移の臨界現象に関する包括的な理解は,この研究分野に残された大きな問題の一つである.アンダーソン転移で重要となる臨界指数として,臨界点近傍における局在長の発散を特徴付ける臨界指数と,臨界点におけるスケール不変な波動関数を特徴付けるマルチフラクタル指数がある.従来,これらの指数の定量的な議論は,数値計算を中心に行われたが,近年の実験技術の進展により,これらの指数を実験的に求めることも可能となった.また,理論研究の進展により,共形場理論を用いて,臨界指数を解析的に導出することが可能となりつつある.アンダーソン転移に対して共形場理論を適用する際に,鍵となるのが,臨界波動関数のマルチフラクタル性である.対数的共形場理論により,アンダーソン転移の臨界現象を理解する試みが現在進行中である.