- 著者
-
小松 志朗
- 出版者
- 日本公共政策学会
- 雑誌
- 公共政策研究 (ISSN:21865868)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, pp.98-108, 2020-12-10 (Released:2021-10-02)
- 参考文献数
- 33
本稿の目的は,COVID-19の事例を通じて国際政治の視点から有効な感染症対策のあり方を探ることである。特に注目するのが,アメリカ,WHO,中国の関係である。アメリカとWHOは渡航制限をめぐって対立していた。対立が激化したのはそもそも渡航制限の効果に関して政治と科学が対立しているところに,WHOの指導力の弱さ,米中対立という要因が重なった結果である。米中対立に目を向ければ,それが民主主義と権威主義という異なる政治体制間の競争でもある点が,感染症対策との関連で重要になる。国内対策はしばしば個人の自由や権利を制限する「強い措置」を含むことから,民主主義国にとっては強い措置が果たして採用すべき有効な対策なのかどうかが難しい問題となる。しかし,いくつかの研究が示唆するように,「強い措置=有効な対策」の等式が常に成り立つわけではない。感染症対策の強制性と有効性は別物であり,概念上はいったん区別するべきだろう。以上の分析を踏まえると,国際政治の文脈で,有効な感染症対策を実現するために求められるのは,次の2点である。政治と科学の連携を促すためにWHOの機能・権限を強化すること,そして「強い措置=有効な対策」という等式を前提にせず科学の判断に耳を傾けることである。いま国際社会が必要としているのは,強い措置よりもまずは強いWHOである。