著者
小林 元気
出版者
日本特別活動学会
雑誌
日本特別活動学会紀要 (ISSN:13437151)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.51-60, 2021-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
27

本稿は、児童会・生徒会選挙に着目し、全国の学校教育における実施状況と、成人後の若年層における主権者教育の知識定着という教育効果の有無を検証することを目的としている。分析の結果、⑴大半の中学校では投票選挙が行われる一方で、小学校と高校での実施状況はおよそ半々であり、個人の学校生活を通じた選挙経験の蓄積にはばらつきがあること、⑵学校生活での選挙経験は成人後の主権者教育の知識定着を強めていることが明らかになった。これらの知見は、全国で実践されてきた児童会・生徒会選挙の教育効果を示唆している。本稿は、特別活動の社会的意義に関するエビデンスの提示を目指した定量的実証研究として、萌芽的な意義をもつものである。
著者
小林 元気
出版者
留学生教育学会
雑誌
留学生教育 (ISSN:13452398)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.59-68, 2017-12

2000 年代の後半から,「内向き」という言葉が,若者の海外志向の低下という文脈において,特に,海外留学者数の減少の原因として語られるようになり,政府の海外留学政策の基本認識としても定着している。本論は,そのような「内向き」イメージが社会的に構成されたものであるとの前提に立ち,新聞・雑誌記事の言説を分析した。結果,「内向き」イメージは,2009 年の政府資料をきっかけとして社会的に構成され,社会に定着したことが明らかになった。また,「内向き」言説の根拠として言及される日本人の海外留学に関する各種統計について,多様な留学の定義を整理しながら検討した結果,エリート層が中心となる長期留学が減少する一方,非エリート層中心の短期留学が増加していると考えられる点が示唆された。最後に,長期留学の減少について若者の「内向き」志向と一般化してしまうことの誤謬と,教育格差の視座から短期留学に着目する必要性について指摘した。
著者
小林 元気
出版者
留学生教育学会
雑誌
留学生教育 (ISSN:13452398)
巻号頁・発行日
no.24, pp.33-41, 2019-12

本稿の目的は,日本人学生の留学経験とその後の就労内容の関係性を明らかにすることである。学生の留学経験は国際的な仕事につながるのかというテーマに関して,海外では一定の先行研究の蓄積があるが,日本人学生を対象とする研究は十分に行われていない。そこで本稿は,教育システムと労働システムの関係性について問う「職業的レリバンス」の概念枠組みから,日本人学生の留学経験が仕事での英語使用頻度の高さや海外勤務経験につながるかどうかについて,大規模な全国統計調査の個票データを用いて二次分析を行った。その結果,在学中の留学経験は,仕事での英語使用頻度と海外勤務経験率の双方を有意に高めていた。このことから,学生の在学中の留学経験は,将来の就労において国際的な仕事につながるという留学の「職業的レリバンス」の存在が明らかになった。The purpose of this paper was to reveal the relationship between Japanese students' experience of studying abroad and the contents of their careers. While there have been a few foreign studies that have examined "how the experience of students' study abroad is linked with international jobs," little attention has been paid to the Japanese case. This paper, therefore, used large-scale national statistical survey data to analyze the correlation between Japanese students' experience of studying abroad, their use of English at work, and the potential for working abroad in the future from the conceptual outline of "vocational relevance." Results showed that the effect of the experience of the students' studying abroad affected both a high frequency of English use at work and the probability of working abroad. These analyses confirmed the "vocational relevance" of students' study abroad for the Japanese labor system.
著者
小林 元気
出版者
留学生教育学会
雑誌
留学生教育 (ISSN:13452398)
巻号頁・発行日
no.23, pp.33-41, 2018-12

本稿の目的は,日本人大学生の短期留学志向の形成要因を明らかにすることである。個人の留学志向の社会的選抜性に関しては,海外事例を中心に一定の先行研究の蓄積があるが,日本人を対象とする研究では特定の大学にサンプルが限られており,「日本社会において誰が留学を志向しているのか」という全体的な問いはまだ十分に検討されていない。そこで本稿は国内の大学生が実践する短期留学に分析対象を定め,大規模な全国統計調査の個票データを用いて二次分析を行う。学生の出身家庭の社会経済的要因や所属大学の入試難易度の効果,就職達成に対する不安感の有無を考慮に入れて,留学志向を規定する要因を検討した。その結果,世帯年収の効果に加え,所属大学の入試難易度や就職不安のメンタリティーの効果が有意に存在し,それらが複合的に関連しながら短期留学の意欲や機会を形成していくメカニズムの存在が示唆された。The purpose of this paper is to reveal the factors that affect the motivations of Japanese university students to engage in short-term studies abroad. Although, there has been some prior research mainly on overseas cases that have examined the students' orientations for studying abroad related to social selectivity, the studies analyzing Japanese youth, were limited and collected at a specific university. Therefore, this study used a large-scale national statistical survey data on university student life to consider the factors that affect the orientations to studying abroad, such as the students' family background, the university's academic ranking, and employment anxiety. Results showed that factors of students' family income and universities' ranking also affected students' expectations for short-term studies abroad. Moreover, the students' level of employment anxiety also had effects. These analyses confirmed that the opportunity and incentive for short-term studies abroad are formed in a complex manner based upon these factors.