著者
小林 碧
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

まず、先行研究に沿った行動観察による、スーパーコロニーの独立性の判定をおこなうため、「アリ個体」対「アリ個体」の攻撃性行動実験を行った。その結果、スーパーコロニーA、B,およびDの3つのスーパーコロニー間での排他的行動が確認され、独立が立証された。さらに、巣間をアリが自由に出入りできるスーパーコロニー内でも、巣仲間同士では栄養交換など協力的行動が観察されたが、非巣仲間間ではそのような協力的行動は見られなかった。アルゼンチンアリの先行研究中、スーパーコロニー内の巣仲間と非巣仲間に対する行動の差を報告した論文は1報のみで、その行動は触角で相手の身体をなでる行動であった。協力行動が見られた本研究の行動実験結果は、アリの巣仲間識別が、スーパーコロニーを形成するアルゼンチンアリにおいても行われていることを決定付けるものである。また、電子顕微鏡を用いたアルゼンチンアリの触角の観察から、sensilla basiconica様の感覚子が発見された。このsensilla basiconicaはクロオオアリ、およびエゾアカヤマアリにおいて、仲間識別感覚子として同定されている。この型の感覚子は1触角当たり約70個あることが判明した。この数はエゾアカヤマアリ(約120個、本研究から)やクロオオアリ(約180個、先行研究から)と比較すると少ないが、3種共、触角の先端部分に集中分布していた。さらに本研究では、「アリ個体」対「CHCを塗布したガラスビーズ」の行動実験を行った。巣仲間識別に用いられていると考えられるCHCを、アルゼンチンアリ100個体等量から2倍希釈した10段階の量をそれぞれ塗布したガラスビーズに接触したアリの行動観察から、CHCの量と行動変化の関係を明らかにした。その結果、アルゼンチンアリの忌避行動がCHC量に依存して変化することが明らかになった。この知見を元に大量の炭化水素を用いた新規の忌避剤の開発の可能性が認められ、特許の申請を行った。