著者
大石 信節 小樋 雅隆 玉利 光太郎 元田 弘敏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Db1209, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 理学療法において患者の腹式呼吸や胸式呼吸の能力を知ることは非常に重要である。腹式呼吸の評価法としてはレスピトレースやMRIや超音波を用いたものなどがある。しかし、スパイロメータを用いて直接腹式呼吸や胸式呼吸の機能を評価した研究は筆者らの検索したところでは見あたらない。そこで本研究では腹式呼吸の肺活量(VC-AR)や胸式呼吸の肺活量(VC-TR)をスパイロメータで測定し、級内相関係数を用いて検者内信頼性をBland-Altman plotより妥当性を検討した。また、測定結果が真の変化を表すかどうかを判断する指標として最小検知変化(MDC)を算出した。さらにVC-ARとVC-TRの割合を算出した。【方法】 健常成人男性30名(年齢21.6±0.72歳、身長171.2±4.53cm)に対してVC-AR、VC-TRを5回、VC を4回測定した。測定肢位は安静背臥位でVC-ARは剣状突起の下部に最大呼気位でバンドを巻き、胸郭の動きを阻害した。その状態で被検者には最大吸気位から最大呼気位まで意識的に腹式呼吸のみを行わせた。VC-TRは下部肋骨の2横指下に最大呼気位でバンドを巻き、横隔膜の動きを阻害した。その状態で被検者には最大吸気位から最大呼気位まで意識的に胸式呼吸のみを行わせた。測定結果についてはVC-ARとVC-TRは測定1~3回目、2~4回目、3~5回目の級内相関係数(ICC)、VCは測定1~3回目、2~4回目のICCを算出して信頼性を検討した。またSpearman-Brownの公式よりICC=0.8を保証する測定回数(K)を算出した。さらに測定標準誤差(SEM)を用いてMDCをVC-AR、VC-TR、VCについて算出した。妥当性はVC-AR とVC-TR の和がVCと一致すると仮定して、Bland-Altman plotよりt検定で加算誤差、ピアソンの相関係数で比例誤差を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 健常成人男性30名に対して事前に本研究の主旨、測定方法、リスクについて説明し、書面で同意を得た。【結果】 1) VC-ARは測定3~5回目の ICC(1,1)=0.843、VC-TRは測定3~5回目の ICC(1,1)=0.757、VCは測定2~4回目のICC(1,1)=0.935が最も高かった。またその際のVC-ARではK=0.74、SEM=0.245(L)、MDC=0.68(L)であった。VC-TRではK=1.28、SEM=0.325(L)、MDC=0.90(L)であった。VCではK=0.29、SEM=0.169(L)、MDC=0.47(L)となった。2)X軸に{(VC-AR+VC-TR)+VC}/2をY軸に(VC-AR +VC-TR)-VCをとりBland-Altman plotを作成した。その結果、加算誤差は認められなかったものの(t=-1.53,p=0.14)、比例誤差、すなわち肺活量が大きくなるほど、過大評価をする傾向が認められた(r=0.039,p=0.034)。3)30名の各肺活量の平均はVC-AR=2.11±0.61L 、VC-TR=2.63±0.64L、VC=4.39±0.64Lであった。またVC-ARとVC-TRの和に対するVC-ARの割合の平均は43±0.09%であった。【考察】 1)よりVC-AR、VC-TRでは測定3~5回目のICCが最も高かった。またその際VC-ARのK=0.74 、VC-TRのK=1.28という結果からVC-ARは2回の練習後に1回の測定、VC-TRは2回の練習後に2回の測定の平均値で一定の信頼性を持つ測定値が得られることが明らかになった。VCでは測定2~4回目のICCが最も高かった。またその際VCのK=0.29という結果からVCは1回の練習後に1回の測定で一定の信頼性を持つ測定値が得られることが明らかになった。VC-AR のSEMとMCDはVC-TRより優れていたが、VCよりは劣っていた。VC-ARのSEMは全体の11.6%、VC-TRのSEMは全体の12.4%、VCのSEMは全体の3.9%であった。VC-ARとVC-TRのSEMの場合は一般的に感受性がよいと言われる10%以内に近い値を示した。2)の過大評価をする傾向が認められた原因は不明である。データ数を増やして再検討する必要がある。3)一般的に男性は胸式呼吸よりも腹式呼吸が優位であると言われている。しかし、本研究により最大呼吸活動の肺活量測定時には腹式呼吸よりも胸式呼吸が優位な人が多いことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 本研究で腹式呼吸と胸式呼吸の機能をスパイロメータで評価できる可能性が示唆された。理学療法での呼吸機能の改善度を数値化できれば、臨床への貢献が期待できる。