著者
川北 大 飯田 修平 内藤 秋光 藤田 拓也 小瀧 敬久 佐藤 絵美 岡田 雄大 池田 喜久子 玉利 光太郎 阪井 康友
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.56-62, 2023 (Released:2023-02-15)
参考文献数
28

〔目的〕回復期の片麻痺患者に対してロボット型短下肢装具(R-AFO)を用いたリハビリの効果を検討すること.〔対象と方法〕対象は24名の脳血管障害片麻痺患者.介入期間は10日間で,評価は介入前,介入後の2回実施した.R-AFO群は,通常の理学療法練習60分と,R-AFOを使用した起立や歩行練習を20分の計80分間,非実施群は,通常の理学療法練習を80分間行った.〔結果〕通常群よりもR-AFO群で有意に効果が認められた項目は,歩行速度,麻痺側片脚支持時間,片脚支持時間の左右対称性割合,機能的自立度評価法(FIM)であった.〔結語〕R-AFO装着下での麻痺側に荷重を促す歩行訓練を反復して行ったことで,麻痺側片脚支持時間の割合の増大による,歩行左右対称性の改善効果を有する可能性を示唆した.
著者
森川 真也 玉利 光太郎 谷口 千明 得丸 敬三
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.494-502, 2015-10-20 (Released:2015-10-20)
参考文献数
31
被引用文献数
15

【目的】本研究の目的は,通院・通所高齢者の短期的な生活空間の変化に影響する因子を明らかにすることである。【方法】対象は5 施設の通院・通所リハビリテーション利用者82 名とした。5 ヵ月間の追跡調査にて,従属変数は生活空間の狭小化または常時低活動域とした。測定項目は身体機能,医学的属性,人とのつながり,自己効力感,運動能力の変化量の計測を行った。また,基本属性と個別介入回数,調査開始前介入期間を交絡因子とした。統計処理は,階層的二項ロジスティック回帰分析にて影響因子を検討した後,検査特性を算出した。【結果】交絡因子調整後も握力,自己効力感が抽出された。このモデルの感度は82.6%,特異度72.2%,陽性尤度比2.97,陰性尤度比0.24 であった。【結論】生活空間が5 ヵ月後に狭小化,または低活動域から脱却できない通院・通所者の特徴として,握力,自己効力感が低いことが示唆された。
著者
庄﨑 賢剛 今村 知之 中道 剛 松井 良一 柴田 和哉 松永 圭一郎 玉利 光太郎 原田 和宏 元田 弘敏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101575, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 現在、腰痛の約80%が原因不明の非特異的腰痛であり、アライメント異常は腰椎椎間関節・腰仙関節などにストレスが生じ、腰部・骨盤帯の不安定性による機能障害や疼痛を引き起こす可能性が考えられる。そのため、理学療法において腰部・骨盤帯に関連する仙腸関節の可動性の評価は重要である。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、新鮮死体用いた報告、生体に直接Wire・ボールを挿入しカメラやX線を用いた報告、MRIを使用した報告などがある。しかし、これらの方法では侵襲やコストの面から臨床応用は困難であると思われる。加えてこれらの報告は腰椎前屈・後屈・股関節屈曲での他動的測定姿勢位で行われており、骨盤周囲筋を動員し自動運動時の測定肢位での研究は見当たらなかった。そのため、本研究では安静立位と自動運動時の骨盤前傾・後傾時にそれぞれX線撮影し、仙腸関節の可動性の定量化と信頼性を検討した。【方法】 信頼性の検討では健常成人男性15名を対象とし(年齢:27.9±4.6歳、身長:168.4±5.9cm、体重:60.8±9.0kg)、仙腸関節の定量化の測定では健常成人男性62名とした(年齢:28.7±5.7歳、身長:169.7±5.9cm、体重:64.0±9.3)。X線撮影は安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位の3つの姿勢にて、腰椎・骨盤における矢状面を立位の左側方からX線を照射し撮影を行った(L→R画像を撮影)。骨盤の動きは検査者が徒手的に骨盤前後傾の動きを誘導した。その際、体幹が前傾・後傾することなく、正中位を保持し、両膝が屈曲位とならない範囲での姿勢を保つように指導した。被験者に動きを十分学習させた後、骨盤周囲筋を最大に動員した自動運動の最終域で姿勢を保持させ撮影を行った。再現性に関しては同様の方法で、その後1か月以内に2回目の撮影を行った。得られた画像はDICOM形式医用画像Viewer(Radis Version 1.2.0)を使用してパソコン上に描写し、その画像処理を行った後、GNU画像編集プログラム(GIMP2.6.7)を使用して、骨盤傾斜角、腰仙角(第1仙椎上縁と水平線との角度)を計測した。本研究では、仙腸角は腰仙角から骨盤傾斜角を引いたものと定義した。骨盤傾斜角はASISとPSISとを結ぶ線と水平線とのなす角度とし定義した。X線撮影に関しては当院の医師の指示の基、診療放射線技師が行った。統計学的解析はSPSS Statistics Ver.20 を用いた。信頼性に関しては、相対信頼性として級内相関係数(ICC)を算出し、また絶対信頼性を検証するために測定の標準誤差、最小可検変化量(MDC)を算出した。そして、安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位において各被験者の各姿勢における平均値を算出した。また仙腸関節の可動性として各姿勢での仙腸角の差の絶対値の平均を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得て(承認番号11-31)、各対象者に対し研究の主旨を書面と口頭で十分に説明し、同意書に署名が得られた方を対象とし実施した。【結果】 仙腸角について安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位におけるICCは全て0.99となり、MDCは安静立位0.86°、骨盤前傾立位1.38°、骨盤後傾立位1.11°となった。62名の仙腸角の平均値を算出すると安静立位20.04±6.80°、骨盤前傾立位19.29±6.85°、骨盤後傾立位22.25±6.90°であった。仙腸関節の可動性は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°(最大値9.82°、最小値0.12°)、安静立位と骨盤後傾立位では3.91±2.75°(最大値13.43°、最小値0.13°)という結果になった。骨盤前傾の際、腸骨に対し仙骨が後屈した者は38名(-3.23±2.40°)、前屈した者は24名(3.19±2.63°)であった。骨盤後傾の際は仙骨が前屈する者は37名(5.13±2.73°)、後屈する者は25名(-2.10±1.64°)であった。【考察】 今回の結果ではICCは0.99となり、相対信頼性が良好であることが確認できた。またMDCは0.86°~1.38°となり、仙腸関節の可動性がMDC以上の値となり、「誤差以上の変化」が見られた。今回、仙腸関節は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°、安静立位と骨盤後傾位では3.91±2.75°の可動性が見られた。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、竹井らは一側の股関節最大屈曲位にて仙腸関節は2.3°前屈位となり、両側の股関節屈曲では仙腸関節の動きは認められないとし、Sturessonらは股関節90°屈曲の際に-1.0°~ -1.2°の仙骨の後屈が見られたと報告している。本研究においては仙腸関節の可動性は先行研究を超える値が示された。その原因として、本研究での測定は骨盤周囲筋を最大限に動員した自動運動の測定肢位で行われたことなどが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回考案したX線を用いた仙腸関節の測定法での信頼性の確認と仙腸関節の可動性に関する新たな知見は臨床応用に繋がる可能性がある。
著者
内田 茂博 玉利 光太郎 横山 茂樹 川上 照彦 加藤 浩 山田 英司 有馬 信男 山本 哲司
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.442-448, 2011-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

【目的】本研究では,術前の身体・精神的機能が人工膝関節置換術後2週の運動機能にどう影響しているかを明らかにすることを目的として縦断的に調査を行った。【方法】変形性膝関節症と診断され人工膝関節置換術が施行された38名(平均年齢75.0 ± 6.1歳)を対象とし,術前の身体・精神的機能および術後2週のTimed Up and Go test(TUG)を計測した。交絡因子の影響を取り除くため,得られたデータは重回帰モデルを用いて分析した。【結果】術後2週の運動機能であるTUGを予測する因子として,術前の安静時痛,自己効力感,交絡因子である非術側膝伸展可動域が抽出された。【結論】術前の自己効力感,安静時痛および非術側膝伸展可動域は,術後早期の運動機能指標であるTUGの予測因子であることが示唆された。
著者
天野 徹哉 玉利 光太郎 浅井 友詞 河村 顕治
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.374-381, 2011-08-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

【目的】本研究の目的は,内側型変形性膝関節症(内側型膝OA)患者を対象に薬物療法等の医学的処置の影響を統計的手法により取り除いたうえで,立ち上がり速度の関連因子を明らかにすることである。【方法】保存的治療中で,上肢支持なしで椅子からの立ち上がりが可能な内側型膝OA患者74名を対象とした。研究デザインは横断研究で,説明変数として膝関節周囲筋の最大等尺性筋力・立ち座り時の疼痛(VAS)と膝関節可動域の計測を行い,目的変数として5回立ち上がりテスト(TST-5)の計測を行った。また,基本属性と医学的属性である障害側(両側性または片側性)・非ステロイド抗炎症薬使用の有無・関節内注射の有無・関節穿刺排液の有無を交絡因子として扱った。統計学的処理は階層的重回帰分析による多変量解析を行った。【結果】TST-5の関連因子は,膝伸展筋力・膝屈曲筋力とVASであり(p < 0.05),これらの因子は基本属性や薬物療法等の医学的処置の影響からも独立していた。【結論】本研究の結果より,内側型膝OA患者の立ち上がりには基本属性や薬物療法等の医学的処置の影響とは独立して,膝伸展筋力・膝屈曲筋力と立ち座り時の疼痛が重要な関連因子であることが示唆された。
著者
天野 徹哉 玉利 光太郎 浅井 友詞 河村 顕治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O1137, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 変形性膝関節症(以下,膝OA)は,立ち上がりや歩行時などの疼痛・筋機能の低下・変形による関節可動域制限が主要因となり,移動動作能力の低下が最も問題とされている。我々は先行研究において,膝OA患者における歩行速度の関連因子は膝屈曲筋力,膝伸展筋力,歩行時の疼痛であることを報告した。しかしながら,本邦における膝OA患者の動作能力と関連因子の検証は,いまだ不十分である。今回,膝OA患者の立ち上がり能力に着目し,その関連因子について検討することを本研究の目的とした。【方法】 2009年3月から5月の間に当院整形外科で膝OAと診断され,保存的治療を実施している53名(男性12名,女性41名;年齢74.6±7.7歳)を対象とした。取り込み基準は,椅子からの立ち上がりが上肢の支持なしで可能な者とした。対象側は疼痛症状が強い側とし,左右同程度の疼痛の場合には膝関節可動域範囲の制限が強い側を対象側とした。研究デザインは横断研究で,立ち上がり能力を評価する指標として5回立ち上がりテスト(Timed Stands Test:以下,TST-5)を使用した。椅子からの立ち上がり動作を用いた評価法には回数法と時間法があるが,今回は回数を規定し時間を計測する回数法を採用した。立ち上がり能力の関連因子として,性別,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),患者立脚型変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下,JKOM)スコア点,自己効力スケール(以下,K-ASES-J),膝屈曲筋力,膝伸展筋力,大腿四頭筋に対するハムストリングの筋力比(以下,H/Q比),下肢伸展筋力,疼痛の程度(visual analog scale:以下,VAS),膝関節伸展角度,ハムストリング柔軟性(以下,HM柔軟性)の計測および調査を行った。統計学的処理は,TST-5を従属変数とした重回帰分析による多変量解析を行った。説明変数は膝屈曲筋力,膝伸展筋力,H/Q比,下肢伸展筋力,VAS,膝関節伸展角度,HM柔軟性の7項目,交絡因子は性別,年齢,BMI, JKOMスコア点,K-ASES-Jの5項目とした。さらに,説明変数と交絡因子の多重共線性の影響を考慮し,膝屈曲筋力,膝伸展筋力,H/Q比の3つの説明変数を同時に同じモデルに含めることはせず,従属変数に対して3つのモデルを立て解析を行った。統計解析には統計ソフトSPSS(Student Version 16.0)を用い,有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は吉備国際大学「人を対象とする研究」倫理規程,『ヘルシンキ宣言』あるいは『臨床研究に関する倫理指針』に従った。対象者には書面および口頭にて本研究の目的と内容に関する説明を行い,書面による同意を得た。また,データの収集,分析,公表では個人情報が特定出来ないように連結匿名化を行った。なお,本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認(承認番号08-14)を得て実施した。【結果】 TST-5に影響を与える因子は,膝屈曲筋力(p=0.008,偏回帰係数-0.42),膝伸展筋力(p=0.034,偏回帰係数-0.32)と立ち座り時のVAS(p<0.05,偏回帰係数0.26~0.34)であった。すなわち,立ち座り時間の短縮には膝屈曲筋力と膝伸展筋力が高値であること,立ち座り時の疼痛が低値であることが関係していた。【考察】 膝OA患者を対象に立ち上がり能力の関連因子について検討した。本研究の結果よりTST-5には膝伸展筋力だけではなく,膝屈曲筋力,立ち座り時の疼痛も関連があることが明らかとなった。また,H/Q比がTST-5に有意な関連性がないことから,膝伸展筋力,膝屈曲筋力がどちらか単独で強ければTST-5が短縮されるのではなく,膝関節周囲筋の筋力が全体的に関連する可能性が示唆された。先行研究より立ち上がり能力の関連因子として,身体機能レベルでは膝伸展筋力,足関節背屈角度などの報告がされ,特に膝伸展筋力との関連性が指摘されている。下肢筋力においては,先行研究を支持する膝伸展筋力とともに膝屈曲筋力も立ち上がり能力に関連することが,本研究の結果より示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から,膝OA患者の立ち上がり能力には膝伸展筋力だけでなく,膝屈曲筋力と立ち座り時の疼痛も関連があることが明らかとなった。現在,膝OA患者に対する筋力強化運動として主に膝関節伸展筋の運動が実施・指導されている。しかし,本研究の結果より今後,膝屈曲筋力を含めた膝関節周囲筋力と立ち上がり能力についての縦断研究や介入研究を行い,立ち上がり能力との因果関係について検討する必要がある。
著者
福添 伸吾 玉利 光太郎 河村 顕治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AdPF1005, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】歩行中,身体は2つの機能的単位であるパッセンジャー(上半身と骨盤)とロコモーター(骨盤と下半身)に分けられ,ロコモーターの筋活動の有無や程度はパッセンジャーの姿勢で決定される(月城,2005)。しかしながら,歩行中のパッセンジャーの姿勢がロコモーターの筋活動に与える影響については良く分かっていない。先行研究(高橋,1998)より体幹を股関節において35°に屈曲させた歩行では,大殿筋,中殿筋,大腿二頭筋の筋活動が歩行周期を通しておよそ200%に増加したと報告がある。しかし,健常人がこのような姿勢で歩行することは稀であり,むしろいわゆる猫背と言われる上部体幹屈曲姿勢を呈す場合が多い。本研究では,パッセンジャーの姿勢がロコモーターの筋活動に与える影響について検討し,その際歩幅や歩行速度,股関節の運動が両者の関係に影響を与えるか明らかにすることを目的とし以下の研究を行った。【方法】対象は,整形外科学的・神経学的に問題のない健常男性15名(年齢22.1±1.2歳,身長:170.5±4.1cm,体重:63.5±8.1kg)とした。歩行条件は1)体幹装具を装着(上部体幹中間位)での歩行(以下,条件A),2)体幹装具を装着で上部体幹屈曲位での歩行(以下,条件B)の2条件とし,それぞれ5回ずつ実施した。なお歩行は快適速度とした。体幹装具は,ダイヤルロック式サブオルソレン装具を使用した。矢状面上の歩行動作をデジタルビデオカメラ(SONY,HDR-CX550),により撮影し,動画解析ソフトDartfish(株式会社ジースポート),を用いて踵接地時の股関節屈曲角度と上部体幹屈曲指標を計測した。なおこれらを同定するため,マーカーを対象者の右上前腸骨棘,右上後腸骨棘,右肩峰,右大腿骨外側顆,右大転子に貼付した。歩行中における大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,大腿直筋,内側広筋,外側広筋,半腱様筋,大腿二頭筋(以下,BF)の筋活動を表面筋電計(Noraxon社製)を用いて測定した。最大等尺性収縮時の筋活動を100%として標準化し,踵接地から0.1秒間の積分値を求めた。統計は条件間の筋活動の違いを対応のあるt検定, B条件での筋活動上昇を説明する変数を同定する目的で重回帰分析をそれぞれ実施した(alpha=0.05)。【説明と同意】対象者には事前に本研究の目的を十分説明し,EMGを用いた運動機能測定に関する十分な理解と協力の意思を確認し,同意書を得た上で実施した。【結果】条件Aに対して,条件Bで筋活動が上昇した筋群は,BF(p=0.004)であった。また,重回帰分析によりBFの筋活動上昇を説明する変数として,歩幅(B=3.069,p=0.044)と股関節屈曲角度(B=-0.400,p=0.082)が抽出された。【考察】条件Aに対して条件Bでは,BFのみ有意に筋活動の増大を認めた。条件Bでは条件Aよりも重心線が通常よりも前方に移動するため,外的股関節屈曲・膝関節伸展モーメントが増大した結果,拮抗する大腿後面の筋群を中心に筋活動量が増大したと考えられる。殿筋群は,単関節筋であり主に関節の安定化に寄与すると言われているが,上部体幹屈曲位での歩行においては,脊柱起立筋とハムストリングスを結ぶ筋・筋膜を介して(Myers,2001)股関節でなく膝関節にストレスが大きくかかった可能性がある。 BFの筋活動上昇を説明する変数として,股関節屈曲角度の減少が抽出された。これは骨盤後傾角度の増大に伴うBFの筋活動の増加を意味している。この理由については推測の域を出ないが,上部体幹屈曲による腰椎の代償的伸展がより困難な者は,踵接地時の外的体幹屈曲モーメントが高まった結果BFの活動が亢進した可能性がある。また,骨盤後傾角度の増加に伴って股関節は自動的に外旋し,膝関節は屈曲・内反する(佐保,1996)と言われており,その反応的活動としての膝関節外反保持のため,BFが活動を高めた可能性も否定できない(福井,1997)。これらの結果から,上部体幹屈曲はBFの筋活動を亢進させ,BFの活動は股関節屈曲角度の増減に関連することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】若年健常者男性において腰椎疾患有病率は非常に高く,臨床現場ではハムストリングスの短縮やタイトネスが散見される。こういった病態の一因として上部体幹の屈曲姿勢,いわゆる猫背が関与している可能性は以前より指摘されていたものの,それを実証したものは無かった。本研究はその根拠を呈示できたのではないかと考える。踵接地時のBFの活動に股関節屈曲が関与している要因として前額面上の運動機能連鎖の作用も考えられ,今後の検討課題である。
著者
中野 静菜 玉利 光太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1312, 2012

【はじめに、目的】 近年の登山ブームで、幅広い世代の登山人口が増加している。しかし高所という低酸素環境は、生体にとってハイリスクであり、低酸素環境へいかに対応できるかが高山病などの急性症状の発症を軽減させる鍵となる。急性高山病とは、高所に到達した後6~9時間から72時間までの間に発症し、頭痛(必発)・倦怠などの症状を呈するものをいう。先行研究ではSpO<sub>2</sub>、性差、心拍数、呼吸法などの生体内因子と高山病発生との関係に着目し、リスク管理につなげることを提唱している。しかし、生体外因子、とくに登山で用いられるリュックサックが生体にどのような影響を与えるのかについてはよく分かっていない。本研究では、異なる形状のリュックサックが、換気応答、姿勢、自覚的運動強度にどのような影響を与えるのかについて検証した。【方法】 対象は、健常な女子大学生19名(年齢:19.6±1.57歳、身長:1.59±0.05m、体重:53.83±10.89kg、BMI:21.23±3.91)とした(うち呼吸器疾患の既往2名、運動器疾患の既往5名、両方の既往2名)。また、喫煙者は除外した。実験手続としてトレッドミル(AR-200、ミナト医科学)運動負荷試験を行い、呼吸代謝測定システム(AE300SRC、ミナト医科学)を用いて各種呼気ガス値と一回換気量(TVE)の測定、及び換気応答マーカーである換気効率(VE/VCO<sub>2</sub>)、呼吸リズム(TVE/RR)の算出を行った。また主観的尺度として、実験終了直後には自覚的疲労強度(Borgスケール)を用いて記録した。被験者それぞれに対し、1)通常歩行のみ(以下、コントロール条件)、2)体重20%の重量の登山用リュックサックを背部に密着させるよう肩ベルトを締めた状態での歩行(以下、タイト条件)、3)体重20%の重量の一般的なリュックサックで肩ベルトを最大限に伸ばした状態での歩行(以下、ルーズ条件)の3つのタスクを課し、測定を行った。運動負荷試験のプロトコールには、Bruceにより提唱されているものに一部修正を加えたものを用いた。運動中止基準は、年齢推定最大心拍数の85%とした。さらに、姿勢アライメントのタスク間の違いを見るために、耳垂、第7頚椎、肩峰の3点がなす角をデジタルカメラで撮影・計測した。なお、統計処理は繰り返し測定デザインの二元配置分散分析を行った(α=0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は全ての被験者に対し、目的、実験手続、危険性について十分な説明を行い、文書による同意を得た。【結果】 姿勢アライメント、自覚的疲労強度(Borgスケール)、換気効率については、各条件間に有意な差はみられなかった。しかし、TVEはルーズ条件で有意に高値を示した(p=0.003)。また、TVE/RRは、タイト条件がその他の条件に比べ低値を示す傾向がみられた(p=0.068)。【考察】 本研究のTVEとTVE/RRの結果から、タイト条件がルーズ条件に比べ浅く速い呼吸リズムを助長する傾向がみられるということが分かった。この結果の要因として、タイト条件では肩ベルトの他に、胸部及び腹部ベルトも締めていたため、胸郭の可動性が制限される、いわゆる拘束条件となっていたことが考えられる。この仮説を一部支持する結果として、Bygraveら(2004)は、12名の男性に異なる締め付け強度でリュックサックを背負わせた時の肺活量を測定し、締め付け強度が強い条件では肺活量が有意に減少したと報告している。また、女性は胸郭容積を変えるために肋骨の動きに依存する割合が大きいと言われていることからも、タイト条件は女性が呼吸するには効率の悪い条件であり、登山に際し必ずしも登山用リュックサックを背負うことは推奨されるものでないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 登山はスポーツ愛好者だけでなく余暇活動や趣味活動としても幅広い世代に愛されている運動だが、重篤な状態に陥る可能性のある高山病への予防対策は進んでいるとは言い難い状況にある。生体外因子であるリュックサックが呼吸機能に及ぼす影響は、生体内因子と比較してどの程度大きいかどうかは不明だが、介入可能であり変更も容易だという利点があるため、今後の実証研究を行うための科学的根拠として、本知見は意義があると考える。また登山だけではなく、通常の生活においても頻繁に用いられるリュックサックが呼吸機能に影響を与える可能性を提示したことは、呼吸理学療法学の基礎資料として一定の貢献を果たしていると考える。
著者
玉利 光太郎 Kathy Briffa Paul Tinley
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O1136, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】わが国の50歳以上人口における変形性膝関節症(以下膝OA)の有病率は,男性では約44%,女性では約65%と報告されている.これは欧米諸国と比較してもより高い割合であることが示唆されているが,その理由は明らかになっていない.また50歳以上では,女性が男性に比べ高い発生率を有し,70歳代に限るとその数は1/100人年まで上昇する.これらの疫学的数値は,膝OAに対する治療のみならず,発生予防・重症化予防の重要性を示唆している.また肥満や過去の膝受傷歴等の危険因子に対する取り組みだけでなく,文化的差異や性差を念頭においた関連因子の探索が重要である.近年は横断面上の下肢マルアライメントや股関節モーメントの異常と膝OAとの関連が指摘されているが,理学療法において日常的に取り扱われる下肢回旋可動域と膝OAとの関連についてはいまだ不明である.そこで本研究では,下肢回旋可動域と膝OAとの関連,およびその性差・人種差を明らかにすることを目的とし,以下の調査を実施した.【方法】対象は,日本または豪州在住の50歳以上の健常者86名(うち男性33名,白人34名,),膝OA者202名(うち男性69名,白人102名,)であった(平均年齢±標準偏差:健常群67.5 ± 9.4歳,膝OA群69.5 ± 8.1歳,p=0.07).測定変数は股関節および膝関節外旋,内旋可動域(以下それぞれ股・膝外旋,内旋)とし,電子傾斜計を用いて測定した.なお大腿骨・脛骨の捻転角度や,膝関節・足関節・足部の動きが上記可動域値へバイアスを与えることが報告されているため,これらバイアスを除く方法を考案し股・膝内外旋を測定した(検者内信頼性ICC=0.74-0.96).データの分析には三元配置の分散分析を用い,有意水準αは0.05とした.【説明と同意】本研究はCurtin University of Technologyの倫理委員会の承認を得て実施した.各被験者には紙面で研究内容を説明し,同意書を得た.【結果】分析の結果,膝OA群の股外旋は健常群に比べ有意に小さく(Δ=5.8度,p=0.004),[性別]×[膝OAの有無]には有意な交互作用が認められた(p=0.049).すなわち,男性においては健常群,膝OA群の股外旋に差は認められなかった一方,女性においては膝OA群の股外旋が有意に小さかった(Δ=8.4度,p<0.001).股内旋において健常群と膝OA群に違いは認められなかったが,[人種]×[膝OAの有無]に交互作用が認められた(p=0.002).すなわち日本人においては膝OA群の股内旋が小さい傾向が認められたが(Δ=3.6度,p=0.078),白人においては膝OA群の股内旋が有意に大きかった(Δ=5.0度,p=0.029).膝OA群の膝外旋は健常群に対して有意に小さい値を示したが(Δ=2.5度,p=0.005),膝内旋には両群間に違いは無かった.また膝外旋,内旋ともに交互作用は認められなかった.【考察】本研究結果より,膝OAと下肢回旋可動域には関連があり,股回旋と膝OAとの関連には性差または人種差が存在することが示唆された.特に膝OAを有する女性の股外旋は健常者に比べ明らかに小さい一方,男性ではほぼ同等であることが示唆された.下肢回旋可動域と膝OAとの関連について調査した先行研究は少ないものの, Steultjensら(2000)は129名の膝OA患者の下肢関節可動域と障害度との関連について調査を行なっている.その結果股関節の外旋,伸展,および膝の屈曲可動域の減少と障害度が有意に関連していたと報告している.これは膝OA者の日常生活における活動減少が,股外旋を含む可動域制限を導いている可能性が示唆される.同時に,本研究では股外旋制限が女性膝OA者で強く認められたことから,女性に多く見られる膝OAの関連因子として股外旋が何らかの役割を担っている可能性もある.本研究は横断的デザインのため因果関係については言及できず,また対象者のうち健常男性、健常白人数が少ないため結果の一般化に限界がある.今後は,縦断的に股外旋と膝OAとの関連について調査して行く必要がある.【理学療法学研究としての意義】日本人や女性に多く認められる膝OAの特徴を二カ国にまたがって調査した研究はまだ少なく,膝OAと股関節可動域に関する性差を報告した研究は無い.膝OA者において通常症状を有さない股関節にも可動域制限があることを示したことは,臨床理学療法学を構築していくためのひとつのエビデンスになると考える.
著者
大石 信節 小樋 雅隆 玉利 光太郎 元田 弘敏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Db1209, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 理学療法において患者の腹式呼吸や胸式呼吸の能力を知ることは非常に重要である。腹式呼吸の評価法としてはレスピトレースやMRIや超音波を用いたものなどがある。しかし、スパイロメータを用いて直接腹式呼吸や胸式呼吸の機能を評価した研究は筆者らの検索したところでは見あたらない。そこで本研究では腹式呼吸の肺活量(VC-AR)や胸式呼吸の肺活量(VC-TR)をスパイロメータで測定し、級内相関係数を用いて検者内信頼性をBland-Altman plotより妥当性を検討した。また、測定結果が真の変化を表すかどうかを判断する指標として最小検知変化(MDC)を算出した。さらにVC-ARとVC-TRの割合を算出した。【方法】 健常成人男性30名(年齢21.6±0.72歳、身長171.2±4.53cm)に対してVC-AR、VC-TRを5回、VC を4回測定した。測定肢位は安静背臥位でVC-ARは剣状突起の下部に最大呼気位でバンドを巻き、胸郭の動きを阻害した。その状態で被検者には最大吸気位から最大呼気位まで意識的に腹式呼吸のみを行わせた。VC-TRは下部肋骨の2横指下に最大呼気位でバンドを巻き、横隔膜の動きを阻害した。その状態で被検者には最大吸気位から最大呼気位まで意識的に胸式呼吸のみを行わせた。測定結果についてはVC-ARとVC-TRは測定1~3回目、2~4回目、3~5回目の級内相関係数(ICC)、VCは測定1~3回目、2~4回目のICCを算出して信頼性を検討した。またSpearman-Brownの公式よりICC=0.8を保証する測定回数(K)を算出した。さらに測定標準誤差(SEM)を用いてMDCをVC-AR、VC-TR、VCについて算出した。妥当性はVC-AR とVC-TR の和がVCと一致すると仮定して、Bland-Altman plotよりt検定で加算誤差、ピアソンの相関係数で比例誤差を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 健常成人男性30名に対して事前に本研究の主旨、測定方法、リスクについて説明し、書面で同意を得た。【結果】 1) VC-ARは測定3~5回目の ICC(1,1)=0.843、VC-TRは測定3~5回目の ICC(1,1)=0.757、VCは測定2~4回目のICC(1,1)=0.935が最も高かった。またその際のVC-ARではK=0.74、SEM=0.245(L)、MDC=0.68(L)であった。VC-TRではK=1.28、SEM=0.325(L)、MDC=0.90(L)であった。VCではK=0.29、SEM=0.169(L)、MDC=0.47(L)となった。2)X軸に{(VC-AR+VC-TR)+VC}/2をY軸に(VC-AR +VC-TR)-VCをとりBland-Altman plotを作成した。その結果、加算誤差は認められなかったものの(t=-1.53,p=0.14)、比例誤差、すなわち肺活量が大きくなるほど、過大評価をする傾向が認められた(r=0.039,p=0.034)。3)30名の各肺活量の平均はVC-AR=2.11±0.61L 、VC-TR=2.63±0.64L、VC=4.39±0.64Lであった。またVC-ARとVC-TRの和に対するVC-ARの割合の平均は43±0.09%であった。【考察】 1)よりVC-AR、VC-TRでは測定3~5回目のICCが最も高かった。またその際VC-ARのK=0.74 、VC-TRのK=1.28という結果からVC-ARは2回の練習後に1回の測定、VC-TRは2回の練習後に2回の測定の平均値で一定の信頼性を持つ測定値が得られることが明らかになった。VCでは測定2~4回目のICCが最も高かった。またその際VCのK=0.29という結果からVCは1回の練習後に1回の測定で一定の信頼性を持つ測定値が得られることが明らかになった。VC-AR のSEMとMCDはVC-TRより優れていたが、VCよりは劣っていた。VC-ARのSEMは全体の11.6%、VC-TRのSEMは全体の12.4%、VCのSEMは全体の3.9%であった。VC-ARとVC-TRのSEMの場合は一般的に感受性がよいと言われる10%以内に近い値を示した。2)の過大評価をする傾向が認められた原因は不明である。データ数を増やして再検討する必要がある。3)一般的に男性は胸式呼吸よりも腹式呼吸が優位であると言われている。しかし、本研究により最大呼吸活動の肺活量測定時には腹式呼吸よりも胸式呼吸が優位な人が多いことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 本研究で腹式呼吸と胸式呼吸の機能をスパイロメータで評価できる可能性が示唆された。理学療法での呼吸機能の改善度を数値化できれば、臨床への貢献が期待できる。
著者
天野 徹哉 玉利 光太郎 内田 茂博 伊藤 秀幸 田中 繁治 森川 真也
出版者
常葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,人工膝関節全置換術(TKA)適用患者の身体機能と運動機能の測定を行い,(1)術後早期の機能回復を明らかにすること,(2)各機能の標準値について検討することを目的とした。本研究の結果より,術後14日目という短期間では,膝関節筋力・膝屈曲ROMと歩行速度は,術前機能まで回復しないことが明らかになった。また,各機能の関連因子を基に階級分けを行い,TKA前の身体機能検査と運動機能検査の標準値を算出した。本研究で得られた知見は,理学療法士が変形性膝関節症患者の機能低下を解釈する際の一助になるとともに,理学療法の効果判定をする際の目標値になると考える。