著者
庄﨑 賢剛 今村 知之 中道 剛 松井 良一 柴田 和哉 松永 圭一郎 玉利 光太郎 原田 和宏 元田 弘敏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101575, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 現在、腰痛の約80%が原因不明の非特異的腰痛であり、アライメント異常は腰椎椎間関節・腰仙関節などにストレスが生じ、腰部・骨盤帯の不安定性による機能障害や疼痛を引き起こす可能性が考えられる。そのため、理学療法において腰部・骨盤帯に関連する仙腸関節の可動性の評価は重要である。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、新鮮死体用いた報告、生体に直接Wire・ボールを挿入しカメラやX線を用いた報告、MRIを使用した報告などがある。しかし、これらの方法では侵襲やコストの面から臨床応用は困難であると思われる。加えてこれらの報告は腰椎前屈・後屈・股関節屈曲での他動的測定姿勢位で行われており、骨盤周囲筋を動員し自動運動時の測定肢位での研究は見当たらなかった。そのため、本研究では安静立位と自動運動時の骨盤前傾・後傾時にそれぞれX線撮影し、仙腸関節の可動性の定量化と信頼性を検討した。【方法】 信頼性の検討では健常成人男性15名を対象とし(年齢:27.9±4.6歳、身長:168.4±5.9cm、体重:60.8±9.0kg)、仙腸関節の定量化の測定では健常成人男性62名とした(年齢:28.7±5.7歳、身長:169.7±5.9cm、体重:64.0±9.3)。X線撮影は安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位の3つの姿勢にて、腰椎・骨盤における矢状面を立位の左側方からX線を照射し撮影を行った(L→R画像を撮影)。骨盤の動きは検査者が徒手的に骨盤前後傾の動きを誘導した。その際、体幹が前傾・後傾することなく、正中位を保持し、両膝が屈曲位とならない範囲での姿勢を保つように指導した。被験者に動きを十分学習させた後、骨盤周囲筋を最大に動員した自動運動の最終域で姿勢を保持させ撮影を行った。再現性に関しては同様の方法で、その後1か月以内に2回目の撮影を行った。得られた画像はDICOM形式医用画像Viewer(Radis Version 1.2.0)を使用してパソコン上に描写し、その画像処理を行った後、GNU画像編集プログラム(GIMP2.6.7)を使用して、骨盤傾斜角、腰仙角(第1仙椎上縁と水平線との角度)を計測した。本研究では、仙腸角は腰仙角から骨盤傾斜角を引いたものと定義した。骨盤傾斜角はASISとPSISとを結ぶ線と水平線とのなす角度とし定義した。X線撮影に関しては当院の医師の指示の基、診療放射線技師が行った。統計学的解析はSPSS Statistics Ver.20 を用いた。信頼性に関しては、相対信頼性として級内相関係数(ICC)を算出し、また絶対信頼性を検証するために測定の標準誤差、最小可検変化量(MDC)を算出した。そして、安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位において各被験者の各姿勢における平均値を算出した。また仙腸関節の可動性として各姿勢での仙腸角の差の絶対値の平均を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得て(承認番号11-31)、各対象者に対し研究の主旨を書面と口頭で十分に説明し、同意書に署名が得られた方を対象とし実施した。【結果】 仙腸角について安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位におけるICCは全て0.99となり、MDCは安静立位0.86°、骨盤前傾立位1.38°、骨盤後傾立位1.11°となった。62名の仙腸角の平均値を算出すると安静立位20.04±6.80°、骨盤前傾立位19.29±6.85°、骨盤後傾立位22.25±6.90°であった。仙腸関節の可動性は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°(最大値9.82°、最小値0.12°)、安静立位と骨盤後傾立位では3.91±2.75°(最大値13.43°、最小値0.13°)という結果になった。骨盤前傾の際、腸骨に対し仙骨が後屈した者は38名(-3.23±2.40°)、前屈した者は24名(3.19±2.63°)であった。骨盤後傾の際は仙骨が前屈する者は37名(5.13±2.73°)、後屈する者は25名(-2.10±1.64°)であった。【考察】 今回の結果ではICCは0.99となり、相対信頼性が良好であることが確認できた。またMDCは0.86°~1.38°となり、仙腸関節の可動性がMDC以上の値となり、「誤差以上の変化」が見られた。今回、仙腸関節は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°、安静立位と骨盤後傾位では3.91±2.75°の可動性が見られた。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、竹井らは一側の股関節最大屈曲位にて仙腸関節は2.3°前屈位となり、両側の股関節屈曲では仙腸関節の動きは認められないとし、Sturessonらは股関節90°屈曲の際に-1.0°~ -1.2°の仙骨の後屈が見られたと報告している。本研究においては仙腸関節の可動性は先行研究を超える値が示された。その原因として、本研究での測定は骨盤周囲筋を最大限に動員した自動運動の測定肢位で行われたことなどが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回考案したX線を用いた仙腸関節の測定法での信頼性の確認と仙腸関節の可動性に関する新たな知見は臨床応用に繋がる可能性がある。
著者
大石 信節 小樋 雅隆 玉利 光太郎 元田 弘敏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Db1209, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 理学療法において患者の腹式呼吸や胸式呼吸の能力を知ることは非常に重要である。腹式呼吸の評価法としてはレスピトレースやMRIや超音波を用いたものなどがある。しかし、スパイロメータを用いて直接腹式呼吸や胸式呼吸の機能を評価した研究は筆者らの検索したところでは見あたらない。そこで本研究では腹式呼吸の肺活量(VC-AR)や胸式呼吸の肺活量(VC-TR)をスパイロメータで測定し、級内相関係数を用いて検者内信頼性をBland-Altman plotより妥当性を検討した。また、測定結果が真の変化を表すかどうかを判断する指標として最小検知変化(MDC)を算出した。さらにVC-ARとVC-TRの割合を算出した。【方法】 健常成人男性30名(年齢21.6±0.72歳、身長171.2±4.53cm)に対してVC-AR、VC-TRを5回、VC を4回測定した。測定肢位は安静背臥位でVC-ARは剣状突起の下部に最大呼気位でバンドを巻き、胸郭の動きを阻害した。その状態で被検者には最大吸気位から最大呼気位まで意識的に腹式呼吸のみを行わせた。VC-TRは下部肋骨の2横指下に最大呼気位でバンドを巻き、横隔膜の動きを阻害した。その状態で被検者には最大吸気位から最大呼気位まで意識的に胸式呼吸のみを行わせた。測定結果についてはVC-ARとVC-TRは測定1~3回目、2~4回目、3~5回目の級内相関係数(ICC)、VCは測定1~3回目、2~4回目のICCを算出して信頼性を検討した。またSpearman-Brownの公式よりICC=0.8を保証する測定回数(K)を算出した。さらに測定標準誤差(SEM)を用いてMDCをVC-AR、VC-TR、VCについて算出した。妥当性はVC-AR とVC-TR の和がVCと一致すると仮定して、Bland-Altman plotよりt検定で加算誤差、ピアソンの相関係数で比例誤差を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 健常成人男性30名に対して事前に本研究の主旨、測定方法、リスクについて説明し、書面で同意を得た。【結果】 1) VC-ARは測定3~5回目の ICC(1,1)=0.843、VC-TRは測定3~5回目の ICC(1,1)=0.757、VCは測定2~4回目のICC(1,1)=0.935が最も高かった。またその際のVC-ARではK=0.74、SEM=0.245(L)、MDC=0.68(L)であった。VC-TRではK=1.28、SEM=0.325(L)、MDC=0.90(L)であった。VCではK=0.29、SEM=0.169(L)、MDC=0.47(L)となった。2)X軸に{(VC-AR+VC-TR)+VC}/2をY軸に(VC-AR +VC-TR)-VCをとりBland-Altman plotを作成した。その結果、加算誤差は認められなかったものの(t=-1.53,p=0.14)、比例誤差、すなわち肺活量が大きくなるほど、過大評価をする傾向が認められた(r=0.039,p=0.034)。3)30名の各肺活量の平均はVC-AR=2.11±0.61L 、VC-TR=2.63±0.64L、VC=4.39±0.64Lであった。またVC-ARとVC-TRの和に対するVC-ARの割合の平均は43±0.09%であった。【考察】 1)よりVC-AR、VC-TRでは測定3~5回目のICCが最も高かった。またその際VC-ARのK=0.74 、VC-TRのK=1.28という結果からVC-ARは2回の練習後に1回の測定、VC-TRは2回の練習後に2回の測定の平均値で一定の信頼性を持つ測定値が得られることが明らかになった。VCでは測定2~4回目のICCが最も高かった。またその際VCのK=0.29という結果からVCは1回の練習後に1回の測定で一定の信頼性を持つ測定値が得られることが明らかになった。VC-AR のSEMとMCDはVC-TRより優れていたが、VCよりは劣っていた。VC-ARのSEMは全体の11.6%、VC-TRのSEMは全体の12.4%、VCのSEMは全体の3.9%であった。VC-ARとVC-TRのSEMの場合は一般的に感受性がよいと言われる10%以内に近い値を示した。2)の過大評価をする傾向が認められた原因は不明である。データ数を増やして再検討する必要がある。3)一般的に男性は胸式呼吸よりも腹式呼吸が優位であると言われている。しかし、本研究により最大呼吸活動の肺活量測定時には腹式呼吸よりも胸式呼吸が優位な人が多いことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 本研究で腹式呼吸と胸式呼吸の機能をスパイロメータで評価できる可能性が示唆された。理学療法での呼吸機能の改善度を数値化できれば、臨床への貢献が期待できる。