著者
小田 啓邦 臼井 朗
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

北大西洋から得られた鉄マンガンクラスト試料D96-m4の成長パターンを確認し,後にヨウ素同位体測定結果と古地磁気層序の結果を対比できるように高知大学コアセンター保有のマイクロフォーカスX線CT装置にておよそ2cm角の試料を準備し,成長縞の3次元断面画像を撮像し,解析を行った.その結果,成長縞の3次元的な広がりをある程度とらえることができた.SQUID顕微鏡によるD96-m4試料の極微細古地磁気層序の適用についてはデータ解析手法の改良を重ねて,欧文誌Geologyに成果を出版する事ができた(Odaetal,,2011).これにより,D96-m4試料の成長速度は百万年あたり5.1mmと推定された.また,SQUID顕微鏡による極微細古地磁気層序の手法を改良するために,D96-m4試料から作成された別の薄片について,低温消磁と交流消磁を組み合わせた実験について,SQUID顕微鏡を保有する米国マサチューセッツ工科大学において行ったが,液体窒素による低温消磁を行うと急激な温度変化によって薄片試料がスライドガラスからはがれるのが問題であることが判明した.さらに,古地磁気層序の信頼性を高めるために,特に低温磁性を中心に岩石磁気分析を進めたが,常温で磁性を持つのは単磁区一多磁区粒子のチタン磁鉄鉱,低温で磁性を持つのはキュリー温度(ネール温度)が55Kのイルメナイトおよび5-15Kの未知の磁性相(ある種の陽イオンを含むvernadite)であると考えられる.ヨウ素129の分析は安定同位体との比率が10^<-14>程度が要求されるため,核爆発起源および運用中の原子炉から排出されるヨウ素129のバックグランド測定および鉄マンガンクラスト試料の測定準備を進めていたが.東日本大震災およびそれにともなう原子炉事故によって分析が困難な状況となった。
著者
山崎 俊嗣 金松 敏也 小田 啓邦 横山 由紀子
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.海底堆積物中の磁性鉱物問の磁気相互作用を見積もった。ARM(非履歴性残留磁化)の獲得効率は、磁気相互作用に強く支配されている。そのため、堆積物から相対古地磁気強度を求める際の、堆積物の磁化獲得能の違いを補正(規格化)のためのパラメータとしては、ARMよりもIRM(等温残留磁化)の方が適している。2.北西太平洋における過去25万年間の高分解能の古地磁気強度スタックを構築した。堆積物から信頼できる相対古地磁気強度を求めるには、初期続成作用による磁性鉱物の溶解を受けたものを除く必要がある。低保磁力の磁性鉱物の割合を示す指標であるS比は磁鉄鉱の溶解に敏感であり、これを指標に溶解を受けた層準を除去できる。3.北太平洋の堆積物コアから、過去160万年間の相対古地磁気強度を求めた。このコアの相対古地磁気強度と岩石磁気特性を、堆積環境の異なる西部赤道太平洋のコアと比較すると、相対古地磁気強度は極めて良い一致を示すが、岩石磁気特性の変化は大きく異なる。ウェーブレット変換を用いた時系列解析により、古地磁気強度には10万年スケールの変動が見られること、岩石磁気パラメータは10万年スケールの変動が含まれる場合でも古地磁気強度とは同期しておらず両者に有意な相関はないことを明らかにした。従って、堆積物の性質の変化は相対古地磁気強度に影響しておらず、古地磁気強度記録に見られる10万年スケールの変動は地磁気変動を反映している。4.東部赤道インド洋の堆積物コアから、過去80万年間の相対古地磁気強度及び伏角の変動記録を得た。西部赤道太平洋に見られる伏角異常域は、東部赤道インド洋には延びていない。両海域について、古地磁気強度と伏角の関係を比較することにより、長周期の伏角の変動は、双極子磁場が弱いときに相対的に停滞性非双極子磁場の影響が大きくなることにより生じるというモデルが支持されることを示した。