- 著者
-
横山 由紀子
- 出版者
- 公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
- 雑誌
- 年金研究
- 巻号頁・発行日
- vol.9, pp.1-29, 2018
<p>本稿では、厚生年金からの退出行動の要因およびその変遷について、5年前の状況と比較することで分析を行った。「ねんきん定期便」を利用した長期的な回顧データを利用し、1994~2011年における若年女性を対象とした。本稿で得られた主な知見は以下の通りである。</p><p>第1に、第1子出産により厚生年金から退出する女性が総じて多いものの、近年では継続加入する女性が増加傾向にある。過去5年以内に第1子を出産した女性が継続加入している割合は2004年以前は2割に満たなかったが、その後徐々に上昇し、さらに2009年以降のやや大きな上昇の結果、2011年では約3割が厚生年金に継続加入している。</p><p>第2に、1994~2011年の分析期間において、2000~2006年頃とそれ以外の期間では、厚生年金への継続加入あるいは退出行動の要因が大きく異なる。2000~2006年頃を除く期間において、5年以内に第1子を出産した女性においては収入水準が厚生年金への継続加入の要因となっている傾向がある。また、結婚している女性においては、夫が大卒者の場合には厚生年金から退出しやすい傾向がみられた。逆に、2000~2006年頃にはこうした効果はみられず、むしろ1960年代後半に生まれた世代であるかどうかが大きな要因となっており、こうした世代は他の世代に比べて厚生年金から退出しやすい傾向が確認できた。</p><p>第3に、1990年代後半では高所得者ほど第1子出産後も厚生年金に加入し続けていたが、2000年以降ではほとんどの高所得者が第1子出産後に厚生年金から退出している。一方、2000年代後半では、もともと一定程度の収入があった女性が第1子出産後も厚生年金に加入するような働き方を選択している。</p><p>第4に、新規結婚者の第1子出産率は1996年以降安定的であるが、既婚継続者では出産率に変動がみられた。子どもがいない既婚継続者の第1子出産率は1997年から2003年頃は低下しており、また、すでに子どもがいる既婚継続者では第2子以降の出産率が2002年以降上昇傾向にある。既婚継続者における出産行動が景気の影響を受けた可能性が示唆される。</p><p>第5に、2003年頃までは、すでに子どもがいる厚生年金加入者はその後も継続加入する傾向があったが、2004年以降は厚生年金から退出するケースが増加した。第2子以降を出産する女性の増加およびこうした女性が厚生年金から退出しやすい傾向にあったことが原因だといえる。</p>