- 著者
-
小田内 隆
- 出版者
- 立命館大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2001
本研究計画は12世紀末から13世紀にかけての北中部イタリアにおけるカタリ派、都市コムーネ、教会の諸関係を、この地域の独自の政治的社会的環境の中で研究し、ラングドック地方のケースとの比較を通じて、カタリ派異端の形と意味の多様性、およびそれに対する態度、政策の地域的偏差の重要性を明らかにしようとした。この報告書では3年間の期間でなされた、以上の計画のための基礎作業の成果の一部を3つの章に分けて提示した。第1章では、異端審問を権力過程の問題として考察する上での方法論的な諸問題を考察した。主として、Tアサドの研究に導かれながら、異端統制のための制度的メカニズムである異端審問の権力作用を具体的な歴史的コンテクストで分析する上での理論的な枠組みを素描した。とくに、異端審問が「告白」の制度の出現と密接な関係に立つことを踏まえて、フーコー的な権力論による理解が目指された。第2章では、ラングドックの異端審問に関する研究を踏まえて、同時代のヨーロッパにおける権力技術の発展の一部として異端審問の成立を理解した。異端と教会(異端審問)の関係は、地域社会の複雑な権力関係の網の目の中に置いて初めて、理解可能である。第3章では、Cランシングによるオルヴィエトのカタリ派に関するミクロな研究を紹介しながら、北中部イタリア都市におけるカタリ派の問題を、コムーネという特定の権力空間のなかでおきた「聖なるものと権威との関係」をめぐる論争という視点から考察した。現段階ではなお史料研究にもとづく研究成果には至らなかったが、少なくとも以上の作業にょって異端を具体的な権力関係の相において解釈し直すための枠組みを確立することはできた。