著者
小長谷 幸史 小田島 大 山家 真奈美 高橋 悠斗 古俣 真夕 重松 亨
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.425-435, 2022-11-30 (Released:2022-11-30)
参考文献数
21

分子生物学など幅広い分野で用いられているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は,現在では高等学校の生物の教科書にも記載され,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査で用いられていることにより社会にもPCRが広く認知されるようになった。高等学校の生徒に対してPCRの原理と応用に関する質問紙調査を行った結果,ほぼ全員PCRという言葉を知っていたが,SRAS-CoV2の検査に関すること以外の記述はほとんどなかった。この生徒に対し大学と連携によるPCRの実験を伴った授業を行った。授業は通常の授業時間のなかで説明,PCRの操作,電気泳動を含めて2校時内に行うものとし,PCRは3台の温度の異なるウォーターバスを用いて生徒が反応液の入ったPCRチューブを移動させる“手動PCR”の方法で行った。PCRは原核細胞の16SリボソームRNA遺伝子のほぼ全域の約1500 bpの部分を標的とし,試料は納豆から分離したBacillus subtilisの菌体およびそのDNA,納豆の粘りを用いた。1校時目に全体の説明とPCRの反応操作を行った。PCRの条件は初期変性2分間の後,94°C 20秒間56°C 20秒間72°C 20秒間の25サイクルで行った。2校時目にPCR後の反応溶液を電気泳動に供した結果,9班中2班で目的のPCR産物が得られていた。本実践では感染症対策を十分にとって行うことができた。授業後の課題の設問への解答にはPCRの原理や検査以外の応用の記述がみられるようになった。本実践により通常の授業時間の2校時と課題による時間外学習によりPCRについて学ぶことができる生徒実験が構築できる可能性が見出された。