- 著者
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小畑 孝四郎
- 出版者
- 社団法人日本産科婦人科学会
- 雑誌
- 日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
- 巻号頁・発行日
- vol.55, no.8, pp.890-902, 2003-08-01
- 被引用文献数
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11
卵巣がんにおける病理組織学的な検討で,卵巣子宮内服症の合併頻度が卵巣明細胞腺癌や卵巣類内膜腺癌で高率であることから,卵巣子宮内膜症がこれらの癌の発生母地となっている可能性が注目されている.そこで,卵巣子宮内膜症と卵巣癌との関連性を明らかにし,さらに,卵巣子宮内膜症に対する腹腔鏡下手術の適応を含めた卵巣子宮内膜症の治療戦略について検討した.まず,卵巣子宮内膜症の診断基準を新たに設定し,病理組織学的に検討した結果,卵巣癌における卵巣子宮内膜症の合併ならびに卵巣子宮内膜症から癌への移行像が類内股腺癌や明細胞腺癌に多く,卵巣子宮内膜症はこれらの癌の発生母地となりうることが示唆された.次に,卵巣癌および卵巣子宮内膜症におけるPTEN遺伝子の遺伝子解析ならびにPTEN proteinの免疫組織学的検討から,卵巣子宮内膜症が発生母地であると考えられる卵巣類内膜腺癌や卵巣明細胞腺癌のうち,類内股腺癌の発生にPTEN遺伝子の異常が深く関わっていることが示唆された.また,類内膜腺癌および明細胞腺癌に合併する卵巣子宮内膜症の性格の違いとその発生の由来を調べる目的で,エストロゲンレセプター,プロゲステロンレセプタ-,Ber-EP4,Calretininを免疫染色し,その発現状態を検討した.その結果,卵巣類内膜腺癌や卵巣明細胞腺癌に合併する子宮内膜症は共に卵巣表層上皮由来で,中皮の性格を強く持つ卵巣子宮内股症から明細胞腺癌が,また,ミューラー管型上皮に分化した卵巣子宮内股症から類内股腺癌が発生している可能性が示唆された.さらに,臨床データーの解析から,これら卵巣癌の発生母地となりうる卵巣チョコレート嚢胞の摘出を考慮する基準は,40歳以上または嚢胞の長径が4cm以上の症例であり,卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下手術はCT,MRIで充実部分が認められず,かつ,多量の腹水がない長径10cm以下の症例に行われるのが望ましく,超音波カラートップラー法にて嚢胞内に血流が認められる症例は卵巣癌に準じた対応が必要であることがわかった.