著者
原田 直哉 中島 容子 中村 徹 橋本 平嗣 林 道治 堀江 清繁 赤崎 正佳 小林 浩 井上 芳樹 高井 一郎 潮田 悦男 大井 豪一 小畑 孝四郎 喜多 恒和 下里 直行
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-10, 2013

妊婦健康診査(以下,健診)をほとんど受診することなく分娩に至る妊婦健診未受診妊婦(以下,未受診妊婦)に関する既報では多くが施設単位であるため,奈良県全体での実態を把握するためのアンケート調査を実施した.未受診妊婦の定義は,(1)全妊娠経過を通じての産婦人科受診回数が3回以下,または(2)最終受診日から3カ月以上の受診がない妊婦,のいずれかに該当する場合とした.県内のすべての分娩施設に対し,平成22年1月からの1年間の分娩数と,未受診妊婦があれば個別に母児の状況を調査した.年間11,168例の総分娩数中の11例(0.10%)の未受診妊婦を認めた.初産婦は4例(36.4%)で,5回あるいは7回と多産の経産婦もいた.未入籍は9例(81.8%),妊娠のパートナーと音信不通になっている者が5例(45.6%)いた.重篤な合併症を認めた母体が3例(27.3%),集中治療室に収容された新生児が3例(27.3%)であった.産褥健診を受診しなかった1例(9.1%)は,新生児の1カ月健診も受診しなかった.未受診を防ぐことは,母児の健康を確保するだけでなく,周産期母子医療センターへの患者集中を防ぎ,周産期の医療資源の有効利用にもつながるため,社会全体でその解消に取り組む必要がある.また未受診であった妊婦に対しては,虐待のハイリスクグループと考え,その後を通常の妊婦と異なる個別の対応を行うことにより,虐待を防止することができるかもしれない.〔産婦の進歩65(1):1-10,2013(平成25年2月)〕
著者
梶本 めぐみ 原田 直哉 延原 一郎 春田 典子
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.24-28, 2011

一般に変性が少ないとされる富細胞平滑筋腫が,嚢胞変性をきたし腫瘍マーカーの上昇をも伴ったため,卵巣癌などの悪性腫瘍との鑑別に苦慮した症例を経験した.症例は46歳の2回経産婦.全身の倦怠感および腹部膨満感を主訴に近医内科を受診.骨盤内の腫瘤およびCA125の高値(111 U/ml)を指摘され,婦人科疾患を疑われ当院へ紹介受診となった.骨盤内には子宮または付属器と思われる可動性のやや不良な超新生児頭大の腫瘤を触知し,両側子宮傍組織は軟であった.初診時の採血結果は,Hb 9.7g/dl,Ht 31.5%,plt 40.9×10<sup>4</sup>/μl,LDH 182IU/l,CA125 235.8U/ml,CA19-9 5.4U/ml,CEA 0.8ng/ml.MRIでは骨盤内を占拠する15cm大の多房性の嚢胞性腫瘤を認め,内容液はT1強調像で低信号,T2強調像で高信号であった.腫瘤の1/3程度にT1強調像で低信号,T2強調像では一部高信号の混在も認めるものの不均一な低信号を呈する充実性の部分を認め,造影により著明に濃染され,拡散強調像では高信号を呈した.少量の腹水貯留も認めた.以上のことから卵巣原発の漿液性または粘液性腺癌を第一に疑い,子宮肉腫または変性した子宮筋腫などを鑑別疾患とした.開腹所見にて嚢胞変性を伴った子宮腫瘍であることが判明し,両側付属器は嚢胞変性した子宮体部に付着していたため,子宮とともに両側付属器も摘出した.病理所見では富細胞平滑筋腫と診断した.術後の経過は良好で,CA125も速やかに陰転化した.嚢胞変性を伴う富細胞平滑筋腫は悪性腫瘍との鑑別が困難なことがある.〔産婦の進歩63(1):24-28,2011(平成23年2月)〕