著者
小竹 信宏 奈良 正和
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.I-II, 2002 (Released:2010-11-26)
参考文献数
3
被引用文献数
7 10

Piscichnus waitemata Gregory, 1991は白亜紀以降の海成層, なかでも浅海相に広く産する生痕化石である. かつて, この生痕化石は荷重痕やポットホールといった堆積構造の一つと考えられてきた. 現在では, 一部のエイ類やセイウチ類などが, 堆積物中に生息する底生動物を摂食した際に形成された摂食痕である可能性が指摘されている (Howard et al.,1977; Gregory,1991), 形成者の特異な摂食様式を反映し, 生痕化石内部には母岩を構成する粒子が再堆積した際に形成された級化構造や平行葉理が見られる. このような内部構造の特徴と円筒形状の形態とが相まって, 物理的堆積構造と混同される一因となった. この生痕化石が化石密集層内に形成されると, 化石の再配列や濃集が局所的に起こり, 通常の堆積メカニズムでは理解できない複雑なファブリックが見られるようになる. P.waitemata のサイズと形成メカニズムを考慮すると, 生痕形成に伴って大量の堆積物が短時間に撹拌され再堆積することは間違いない. この事実は, 堆積物表層部で起こる生物撹拌作用を考える際に, 一部の魚類や海生ほ乳類の摂食行動が決して無視できないことを示唆している.
著者
小竹 信宏 近藤 康生 藤井 隆志 芝崎 晴也
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.12, pp.733-745, 2004 (Released:2005-03-18)
参考文献数
64
被引用文献数
3 5

島根県浜田市の中部中新統唐鐘累層畳ヶ浦砂岩部層下部で見られた皿状およびレンズ状の貝殻密集部の形成メカニズムと形成プロセスを, 生痕学的ならびに古生物学的観点から検討した. 明瞭なポットホール状の形態が識別できないことを別にすれば, これらの貝殻密集部の形態と内部構造の特徴は共産する生痕化石Piscichnus waitemata の充填物として見られる化石密集部のそれに酷似する. Piscichnus waitemata は一部エイ類の摂食活動によって形成された構造物と考えられており, 皿状およびレンズ状の貝殻密集部もエイ類の摂食活動による生物攪拌起源である可能性が極めて高い. 皿状およびレンズ状の貝殻密集部が母岩中に孤立して産出する理由として, (1) P. waitemata の充填物と母岩の質的および粒度の差異が極めて少ないこと, (2) 後から形成されたP. waitemata による破壊や上書き, そして内在型底生動物による生物攪拌作用などによって, P. waitemata の上部の形態情報が消去されてしまったこと, などが考えられる.
著者
菊川 照英 相田 吉昭 亀尾 浩司 小竹 信宏
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.5, pp.313-329, 2018-05-15 (Released:2018-06-30)
参考文献数
47
被引用文献数
3

鹿児島県種子島に分布する熊毛層群西之表層の地質,地質年代,そして堆積環境を検討した.砂岩が卓越する西之表層において,生痕化石が多産する泥岩部を大久保泥岩部層として区別した.放散虫化石からは西之表層上部が31.1Maから28.5Maの地層であることが,石灰質ナンノ化石からは西之表層下部が30.00Maから26.84Maに堆積したことが判明した.以上の事実から,西之表層の地質年代が,前期漸新世の後期(30.0-28.5Ma)であることが判明した.岩相分布と地質年代の結果から,(1)西之表層は同層準が褶曲と衝上断層によって繰り返すこと,(2)西之表層の層厚は従来の推定よりも薄いこと,(3)西之表層は九州南部に分布する日南層群に対比されること,そして(4)産出する生痕化石から西之表層は水深が2000mよりも深い海底で堆積したこと,が明らかとなった.今後,西之表層の起源を詳しく解明するためには,堆積学的・構造地質学的観点からの検討が不可欠である.
著者
藤岡 導明 亀尾 浩司 小竹 信宏
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.109, no.3, pp.166-178, 2003-03-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
24
被引用文献数
19 19

横浜地域の大船層中部~小柴層下部に挟在するテフラ鍵層と,房総半島の黄和田層下部~中部に挟在するテフラ鍵層を重鉱物組成,火山ガラスの形態及び化学組成に基づいて対比した.その結果,大船層中部のテフラSg3,小柴層下部のテフラSg2及びSg1はそれぞれ,黄和田層下部~中部のテフラ鍵層Kd38,Kd25及びKd24こ対比された.あわせて行った石灰質ナンノ化石と浮遊性有孔虫化石の検討によってもこの結果は支持される.したがって,大船層中部~小柴層下部は,従来言われていたように黄和田層中部~梅ヶ瀬層に対比されるのではなく,テフラ鍵層Kd19より下位の黄和田層に相当することになる.このことは,横浜地域の第四系の年代論に大幅な見直しが必要であることを意味している.
著者
井上 厚行 小竹 信宏 坂庭 康友 今井 亮
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.108, no.7, pp.465-473, 2002-07-15
参考文献数
48
被引用文献数
2 2

千葉県房総半島南端に分布する千倉層群白浜層中の白色細脈は,従来付加体堆積物から報告されている鉱物脈とは異なり,カルサイトの外にアポフィライトやヒューランダイト,エリオナイト,アナルサイム,ナトロライト,トムソナイト,チャバサイトなどのゼオライトを主体とする鉱物脈である.随伴するカルサイトのδ<SUP>13</SUP>C<SUB>PDB</SUB>(-39‰~-5‰)とδ<SUP>18</SUP>O<SUB>SMOW</SUB>(+24‰~+29‰)値から,脈の生成に関与した溶液中のHCO<SUB>3</SUB><SUP>-</SUP>は堆積物中のメタンの酸化あるいは熱分解に由来したものであると推定される.また,脈の生成温度は1℃~48℃と推算された.ゼオライトやアポフィライトを含む鉱物脈に対して推定された生成温度は従来報告されていた冷湧水に伴う炭酸塩鉱物の生成温度よりも高い.この白浜層の鉱物はプレートの沈み込み帯に伴う冷湧水の組成や起源,さらに流動機構に関する多様性を示す一例である.
著者
菊地 一輝 小竹 信宏
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.9, pp.613-629, 2013-09-15 (Released:2014-02-07)
参考文献数
36
被引用文献数
4 4

徳島県北部島田島に分布する上部白亜系和泉層群板東谷層において,層序,岩相の時空分布,地質構造,そして堆積環境を詳細に検討した.ここの板東谷層は厚さ10 m程度のチャネル充填堆積物とチャネル間堆積物が繰り返し累重することから,海底扇状地のフロンタルスプレーの堆積物であると解釈される.また,海底扇状地システムの西方への前進・移動を反映したと考えられる上方粗粒化の大傾向が,本層全体を通じて認められる.島田島に分布する板東谷層は生痕化石Archaeozosteraを多産するが,その産出層準は泥岩の占める割合が比較的高い最下部の層準に限られる.この事実は,Archaeozosteraの形成者が,混濁流による物理的撹乱の影響が少なく,安定した海底環境が相対的に長い期間持続する場所に限って生息したためと考えられる.