著者
楠橋 直 安藤 友一 谷 健一郎 松原 尚志 栗田 裕司 奈良 正和 山路 敦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.411-426, 2022-12-29 (Released:2022-12-29)
参考文献数
71
被引用文献数
3

四国北西部に分布するひわだ峠層は,三波川変成岩類上に載る最古の地層として知られ,しばしば三波川変成岩類の地表への露出年代を制約するために使われる.しかしながら,同層に関する先行研究は少なく,同層と三波川変成岩類との関係すらも明確には記載されてこなかった.そこで本研究では,同層の全貌を明らかにすることを目的とし,地質調査と砕屑性ジルコンのU-Pb年代測定をおこなった.ひわだ峠層は,層厚100 m以上の浅海成層で,石灰質および非石灰質な礫岩・砂岩により構成される.産出する海棲生物化石と砕屑性ジルコンのU-Pb年代から,その堆積年代は中期始新世のLutetian期前期であると推定される.また,同層は基盤の三波川変成岩類を無整合に覆い,また上位の久万層群によって傾斜不整合で覆われている.したがって,少なくとも四国地方の三波川変成岩類は,中期始新世初めまでには地表に露出していたと考えて良い.
著者
小竹 信宏 奈良 正和
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.I-II, 2002 (Released:2010-11-26)
参考文献数
3
被引用文献数
7 10

Piscichnus waitemata Gregory, 1991は白亜紀以降の海成層, なかでも浅海相に広く産する生痕化石である. かつて, この生痕化石は荷重痕やポットホールといった堆積構造の一つと考えられてきた. 現在では, 一部のエイ類やセイウチ類などが, 堆積物中に生息する底生動物を摂食した際に形成された摂食痕である可能性が指摘されている (Howard et al.,1977; Gregory,1991), 形成者の特異な摂食様式を反映し, 生痕化石内部には母岩を構成する粒子が再堆積した際に形成された級化構造や平行葉理が見られる. このような内部構造の特徴と円筒形状の形態とが相まって, 物理的堆積構造と混同される一因となった. この生痕化石が化石密集層内に形成されると, 化石の再配列や濃集が局所的に起こり, 通常の堆積メカニズムでは理解できない複雑なファブリックが見られるようになる. P.waitemata のサイズと形成メカニズムを考慮すると, 生痕形成に伴って大量の堆積物が短時間に撹拌され再堆積することは間違いない. この事実は, 堆積物表層部で起こる生物撹拌作用を考える際に, 一部の魚類や海生ほ乳類の摂食行動が決して無視できないことを示唆している.
著者
奈良 正和 清家 弘治
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.9, pp.545-551, 2004-09-15
参考文献数
37
被引用文献数
3 26

千葉県九十九里浜の前浜堆積物中から,多数のMacaronichnus segregatis様生痕を発見した.この生痕は,剥ぎ取り試料面上において高さ2-3mm,幅3-50mmほどの円形もしくは長楕円形を成し,内部が細粒砂サイズの無色鉱物で充填され,その周囲に磁鉄鉱などの有色鉱物が濃集することが特徴である.この生痕ときわめて似た特徴を有する本邦第四系産生痕化石Macaronichnus segregatisの形成者については,従来,小型等脚類ヒメスナホリムシとするものと,オフェリアゴカイの様なゼン虫類とするものの2つの説があった.この生痕が産する堆積物からは,ヒメスナホリムシは一切採集されなかったものの,オフエリアゴカイ科の多毛類であるEuzonus sp.が多数採集された.このことから判断すると,このM.segregatis様生痕の形成者は,オフェリアゴカイ類と判断して良いだろう.
著者
仲田 光輝 楠橋 直 齊藤 哲 大藤 弘明 奈良 正和
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.447-452, 2019-06-15 (Released:2019-09-15)
参考文献数
22
被引用文献数
1

A “coarse-grained” metabasite body has recently been discovered within the Sambagawa metamorphic rocks in Kumakogen Town, Ehime Prefecture, Southwest Japan. The metabasite is exposed at only a few outcrops, although gravel-sized clasts from the metabasite are also found in the overlying conglomerate beds of the Eocene Hiwadatoge Formation. The metabasite rocks generally have a weak foliation compared with the well-developed foliation in the surrounding Sambagawa crystalline schists. The metabasite includes white to gray “porphyroclasts” (composed mainly of albite and zoisite) within a greenish-brown matrix (including actinolite and chlorite). Rock textures and modal mineral compositions of the metabasite gravels in the Hiwadatoge Formation are more varied than those found in outcrops of the metabasite unit itself. Mineral assemblages found in the metabasite and the surrounding mafic schist show that both rock units were metamorphosed under conditions corresponding to greenschist facies.
著者
奈良 正和
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.109, no.12, pp.710-721, 2003-12-15
参考文献数
60
被引用文献数
1 4

四国南西部に分布する中新統三崎層群竜串層から,多数のLockeia siliquaria James 1879を発見した.この生痕化石は,層理に平行な断面では,長径9-22mm,短径2.5-11mm程度の楕円型あるいはアーモンド型の形態をとり,砂岩の上面では窪み,あるいは,台状の隆起部に見え,底面ではやや突出した隆起部となる.その形態ならびに内部構造の検討そして母岩の堆積相解析から,この生痕化石は,砂質網状河川システムのうち,小規模なポイントバーで形成された二枚貝類の逃避痕であることがわかった.この生痕化石は,多くの場合,高い密度で産出し,かつ,層理面上において,定向配列する.これは濾過食の二枚貝類が,一方向の流れに対して呼吸や摂餌に最適な体の向きを取っていたためと考えられる.これを応用すると,この生痕化石の定向配列から地層形成時の古流向を知ることができる.