著者
小竹 悟
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.156-163, 2016-03-05 (Released:2018-07-20)

調和振動子の量子力学ではエルミート多項式,水素原子の量子力学ではラゲール多項式という具合に,直交多項式は量子力学の問題を扱う際に頻繁に現れる欠かせない存在である.これら直交多項式は数学者によって詳しく調べられてきた.物理学にとって大切な2階微分方程式を満たす直交多項式はエルミート,ラゲール,ヤコビ多項式に限られる事が古くから知られており,2階差分方程式を満たす直交多項式も(q-)超幾何直交多項式のアスキースキームとして1980年代にまとめられている.このように書くともう何も研究する事が無いように思われるかもしれないが,中々どうして最近もまだ進展があり,その内の2つ,生成消滅演算子の自然な構成と,新しい種類の直交多項式について解説する.この発見の原動力となったのが解ける量子力学模型によるアプローチで,その利点は量子力学の研究で培われた知識・手法を用いる事ができる点である.また,直交多項式の性質に統一的な視点を与える事もできた.例えば,アスキースキームの直交多項式が満たしている前方・後方ずらし関係式は個別に述べられているだけであったが,量子力学の観点からは模型の形状不変性の帰結として統一的に理解できる.解ける量子力学模型の生成消滅演算子に関する研究は色々と行われてきたが,それらは具体的な微分演算子としてではなく形式的な演算子に過ぎなかった.前方・後方ずらし関係式はパラメータをずらしてしまうので,調和振動子以外では生成消滅演算子とは別物である.調和振動子の生成消滅演算子が座標のハイゼンベルク解の負・正振動数部分の係数として得られていたのを真似て,アスキースキームの直交多項式が固有関数に現れる量子力学模型に対して生成消滅演算子を微分演算子(差分演算子)として自然な形で構成する事が2006年にできた.これには,閉関係式と名付けられた性質を用いて,正弦的座標と呼ばれる特別な座標のハイゼンベルク解が厳密に求められる事が利用された.通常の直交多項式は全ての次数が揃っている事から完全系をなしているが,次数に欠落があるにも拘らず完全系をなしているものが新しい種類の直交多項式である.2階微分方程式を満たす(通常の)直交多項式はエルミート,ラゲール,ヤコビ多項式に限られるという定理を逃れる試みとして,微分方程式を差分方程式に変更する事でアスキースキームの直交多項式が得られていたが,多項式の次数を見直すという新しい方向への変更である.0次式が存在せず1次式から始まるが完全系をなす最初の例が2008年に与えられ,例外直交多項式と名付けられた.新しい種類の直交多項式を固有関数として持つ解ける量子力学模型を形状不変性や他の手法を用いて構成する事により,新しい種類の直交多項式が無限に多く得られ,多添字直交多項式と名付けられた.この新しい種類の直交多項式の発見は,多少大げさかもしれないが,エルミート・ラゲール・ヤコビ以来の大きな進展と言えよう.差分方程式を満たす直交多項式に対しても多添字直交多項式を構成する事ができ,これらの構成において量子力学的定式化がおおいに役立った.直交多項式に新たな分野を切り開いたこれらの新しい多項式は現在活発に研究が行われている.
著者
小竹 悟
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.156-163, 2016-03

調和振動子の量子力学ではエルミート多項式,水素原子の量子力学ではラゲール多項式という具合に,直交多項式は量子力学の問題を扱う際に頻繁に現れる欠かせない存在である.これら直交多項式は数学者によって詳しく調べられてきた.物理学にとって大切な2階微分方程式を満たす直交多項式はエルミート,ラゲール,ヤコビ多項式に限られる事が古くから知られており,2階差分方程式を満たす直交多項式も(q-)超幾何直交多項式のアスキースキームとして1980年代にまとめられている.このように書くともう何も研究する事が無いように思われるかもしれないが,中々どうして最近もまだ進展があり,その内の2つ,生成消滅演算子の自然な構成と,新しい種類の直交多項式について解説する.この発見の原動力となったのが解ける量子力学模型によるアプローチで,その利点は量子力学の研究で培われた知識・手法を用いる事ができる点である.また,直交多項式の性質に統一的な視点を与える事もできた.例えば,アスキースキームの直交多項式が満たしている前方・後方ずらし関係式は個別に述べられているだけであったが,量子力学の観点からは模型の形状不変性の帰結として統一的に理解できる.解ける量子力学模型の生成消滅演算子に関する研究は色々と行われてきたが,それらは具体的な微分演算子としてではなく形式的な演算子に過ぎなかった.前方・後方ずらし関係式はパラメータをずらしてしまうので,調和振動子以外では生成消滅演算子とは別物である.調和振動子の生成消滅演算子が座標のハイゼンベルク解の負・正振動数部分の係数として得られていたのを真似て,アスキースキームの直交多項式が固有関数に現れる量子力学模型に対して生成消滅演算子を微分演算子(差分演算子)として自然な形で構成する事が2006年にできた.これには,閉関係式と名付けられた性質を用いて,正弦的座標と呼ばれる特別な座標のハイゼンベルク解が厳密に求められる事が利用された.通常の直交多項式は全ての次数が揃っている事から完全系をなしているが,次数に欠落があるにも拘らず完全系をなしているものが新しい種類の直交多項式である.2階微分方程式を満たす(通常の)直交多項式はエルミート,ラゲール,ヤコビ多項式に限られるという定理を逃れる試みとして,微分方程式を差分方程式に変更する事でアスキースキームの直交多項式が得られていたが,多項式の次数を見直すという新しい方向への変更である.0次式が存在せず1次式から始まるが完全系をなす最初の例が2008年に与えられ,例外直交多項式と名付けられた.新しい種類の直交多項式を固有関数として持つ解ける量子力学模型を形状不変性や他の手法を用いて構成する事により,新しい種類の直交多項式が無限に多く得られ,多添字直交多項式と名付けられた.この新しい種類の直交多項式の発見は,多少大げさかもしれないが,エルミート・ラゲール・ヤコビ以来の大きな進展と言えよう.差分方程式を満たす直交多項式に対しても多添字直交多項式を構成する事ができ,これらの構成において量子力学的定式化がおおいに役立った.直交多項式に新たな分野を切り開いたこれらの新しい多項式は現在活発に研究が行われている.
著者
粟田 英資 久保 晴信 守田 佳史 小竹 悟 白石 潤一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.170-180, 1998-03-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
61

楕円代数という名の国があります. 最近までは, この国のことを詳しく記した地図はありませんでした. この国には楕円関数に付随した代数の秘密が伝わっていると謂われています. それはBaxter達の模型を開ける大事な鍵になると信じられています. Baxter達の模型の臨界点での振舞を読み解く鍵となったのは共形場理論でした. 臨界点から離れたところを探るために, 次の鍵を見つけよつとして, 多くの人々が何年にも亘って知恵を出し合いました. 紆余曲折の末, それでも懸命に進み, 目的地へのある扉を叩くことになった人達がいました.
著者
佐々木 隆 高崎 金久 小竹 悟
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

数多くの厳密に解ける一次元量子力学系を具体的に構成し,その持つ量子対称性と可解性の関係を明らかにした.元の固有関数系に離散対称性を作用させ,(擬)仮想状態解を作り,それらを種解として用いた多重変形によって,数多くの可解量子力学系を得た.仮想状態解からは,例外型および多添え字直交多項式系を得た.擬仮想状態解を用いたものからは,多くのロンスキアン・カソラティアン恒等式を導出した.調和(放射)振動子,ポッシェル・テラー,モース,エッカート,クーロンポテンシャル,ウィルソン,アスキー・ウィルソン多項式,(q-)ラカー多項式等の変形を論じた.高い見かけの特異異性を持つポテンシャルと固有関数系も構成した.