著者
山下 優毅 黒田 悦史
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

悪性グリオーマは中枢神経系に原発する悪性の腫瘍で種々の治療法が試みられているが、予後不良のまま残されている。患者においてはグリオーマに対して免疫反応が誘導されるという報告はあるものの、免疫療法のみでグリオーマを治療するのは困難である。グリオーマに対して免疫療法が成功しない原因として、担癌生体では免疫反応が抑制されているためと考えられている。したがって、担癌生体における免疫抑制機構を解明し、免疫抑制状態を改善することにより、有効な抗グリオーマ効果が期待される。我々はグリオーマに対する免疫反応の機構を解析している際にグリオーマとマクロファージを共培養すると、マクロファージから大量のPGが産生されることを見出した。さらに、このマクロファージでは腫瘍免疫に重要なIL-12,TNF等のサイトカイン産生が低下していることから、グリオーマがマクロファージに作用して、PG産生を誘導し、免疫抑制状態を引起こすという仮説を提唱した。今回、中枢神経系のマクロファージとしてのミクログリアを用いて、免疫反応におけるミクログリアの役割と担癌状態における免疫抑制機構を解析し、次の点を明らかにした。(1)マウス脳内より分離したミクログリアをグリオーマと共培養することにより、ミクログリアが大量のPGを産生した。一方、TNFの産生は抑制された。(2)PG合成酵素をKOしたマウス由来のミクログリアはPGを産生しなく、TNF産生も抑制されなかった。(3)PG合成酵素をKOしたマウスでは腫瘍の増殖も抑制され、有効な免疫反応が誘導された。以上より、ミクログリア由来のPGが免疫反応を抑制すること、またPG産生をコントロールすることにより、腫瘍に対する宿主の抵抗性を誘導できる可能性が明らかにされた。
著者
益淵 正典 山下 優毅 田中 俊憲 林 鷹治 重田 征子 小埜 和久 佐々木 美枝子 新見 治
出版者
広島文教女子大学短期大学部
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

『ホヤ喘息』や『ダニアレルギー』の治療用抗原に関して蓄積してきた知見を基にスギ花粉症治療薬の研究を行った。まず、スギ花粉蛋白質の抽出法の検討を行った。NaHCO_3抽出(CJP-N)ではF画分にCryj1、J画分にCryj2の溶出がみられ、Crij1とCryj2の精製に適していたがPBS抽出(CJP-P)ではよりアルカリ性の弱い画分に様々にアルカリ性度の異なるCryj1,Cryj2、その分解物及び主要抗原以外の抗原の溶出がみられた。次にスギ花粉中のCryj1,Cryj2以外の抗原の存在と、アレルゲンとしての寄与を検討した。CJP-PのSDS-PAGEブロット後のIgE染色では分子量の異なる10個のバンドがみられ、これらは全てCryj1,Cryj2とは異なっていた。Cryj1,Cryj2はSDSで変性を受けてIgEと全く反応しなかった。患者血清を主要抗原で中和後、患者IgEと反応した抗原量を見積った。実験は15人のスギ花粉症患者血清すべてで、主要抗原以外の抗原と反応した。反応は患者による個人差があった。これらの結果を基に、減感作治療用抗原の検索を行い、アレルゲン性が強く、抗体IgGを作る能力が高く、粘膜反応性(結膜反応)をもたず、分子量が1万から10万の間にある抗原、CJP-PのC画分がノミネートされた。この画分は主要画分を含んでいない。今後、主要画分との混合などを検討して、さらに有用なワクチン開発の工夫が必要である。一連の抗原検索中に、イオン交換で分画したCJP-P画分のSDS-PAGE後の、蛋白質のN-末端側のシークエンスを分析した結果、Cryj1のN末端側の分解物(p15)とC末端側の分解物(p29)を発見し、p29が発症抗原である可能性を示唆した。今回我々はスギ花粉ワクチン用抗原を得るために様々な検索を行い、ノミネートされた蛋白質は出てきたがまだ特定するには至っていない。今後、これらの蛋白質の中からさらに効果的なワクチンを開発する方向に向けて研究していく予定である。
著者
岡田 和将 山下 優毅 辻 貞俊
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.265-275, 2006-09-01

てんかん患者や種々のてんかんモデル動物において脳内のサイトカインやcyclooxygenase (COX)-2が増加していることが報告されている.本研究では,テレピン油投与で誘導した炎症反応がおよぼす遺伝性てんかん(E1)マウスのてんかん現象に対する影響を検討した.てんかん発作のパラメーターとして発作誘発閾値(痙攣誘発に必要な抛り上げ回数),痙攣持続時間,痙攣後意識混濁時間(痙攣終了から完全に回復するまでの時間)を解析した.また脳内のinterleukin (IL)-1β, IL-6, COX-2のmRNAをRT-PCR法で解析した.IL-1β, IL-6, COX-2のmRNA発現はてんかん発作前と発作24時間後で変化はなかったが,テレピン油投与24時間後には全て増加した.テレピン油投与24時間後に発作を誘発した場合,痙攣後意識混濁時間は投与前と比較して有意に延長した.発作誘発閾値と痙攣持続時間には有意差はなかった.痙攣後意識混濁時間の延長はインドメタシンの前投与により抑制されたが,インドメタシン投与はIL-1β, IL-6, COX-2のmRNA発現には影響しなかった.これらの結果からE1マウスのてんかん現象において,COX-2によって誘導されるプロスタグランデインは痙攣後意識混濁時間の維持に重要であることが推測される.