著者
小川 陽一 山口 謡司 勝山 稔
出版者
大東文化大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

中国では宋時代以後、とくに明・清時代には、民間で商業出版が流行した。私の調査では、その民間の商業出版で、著者への原稿料はどうであったか、版権はどうであったか、本の価格はどうであったか、書店はどのようにして本を仕入れたか、書店はどのようにして本を売ったか、書店はどのようにして経営されたか、書店の景観(店の様子)はどうであったか、などについて調査した。これらに関するデータは非常に少なくて、調査は困難だった。しかし小説や戯曲のなかには、データを少しは発見することができた。李緑園の小説『岐路燈』には開封の大書店のオープニングに至るまでの準備とオープニング・セレモニーの様子が詳しく叙述されていた。孔尚任の戯曲『桃花扇』には南京の大書店・蔡益所の店内が書かれていた。徐揚のパノラマ『姑蘇繁華図』には蘇州の大書店の外観が描かれていた。李漁の戯曲『意中縁』には、杭州で本と骨董品を取り扱う店の仕入れと販売のことが叙述され、絵も付け加えられていた。李日華の日記『味水軒日記』には、書と画の贋物の多いことが詳しく述べられていた。これらのデータに依って、明代と清代の大都会において、書店では本だけではなく、書や画も売っていたこと、本屋の開設には莫大な資金が必要だったこと、書や画には贋物が多かったこと、本の著作権の意識は希薄だったらしいこと、などを発見した。
著者
蔵中 しのぶ 福田 俊昭 山口 謡司 相田 満 野口 恵子 谷 晃
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

学際研究の試みとして、日本文学を軸としつつも、中国文学・歴史学・建築学・情報学の諸分野から参加者をえた本研究は、従来、歴史学の一分野として、また、建築学の対象として発展してきた茶の湯研究・茶室建築に対して、日本文学研究の書誌学・本文解釈学、注釈研究・出典研究の方法論を導入することによって、茶道文献の読みそのものを格段に深めることができた。一方、日本文学の側からいえば、茶の湯や茶室建築の用語、茶室の寸法等、日本文学の対象の外にあった茶道文献に対して、新たなアプローチをおこない、日本文学研究における茶道文献の有効性を実証することができた。茶の湯を「場」として成立した「座の文芸」の特質は、日本文学のさまざまなジャンルとも複雑に絡み合っている。分析対象として選定した『茶譜』の本文校訂と注釈作業をおこなうなかで、日本文学研究における茶道文献の有効性を検証し、日本文学と茶道史研究の関係論を構築するための基礎データの集積を進めることができた。さらに、国際的な意義として、第二年度のヨーロッパ日本研究協会への参加、日EU交流年認定イベントに認定されたチェコ・カレル大学でのインターナショナル・ワークショップ「茶の湯と座の文芸」の主催、第三年度の中国・魯東大学における国際学会への参加は、茶の湯と日本文学というテーマに対する国際的な関心の高さを実感させてくれた。本プロジェクトが主催したチェコでのワークショップには、ヨーロッパから4名の研究発表者の参加をえた。大東文化大学語学教育研究所『語学教育フォーラム』第11号として刊行された研究報告書には、論文編として、蔵中しのぶ「茶の湯と座の文芸」、福田俊昭「五山文学にみえる茶」、山口謡司「『茶譜』の諸本について」、相田満「茶文化のオントロジ」、野口恵子「茶の湯と連歌-共営する場に関する一考-」、さらに、大東文化大学語学教育研究所客員研究員ションタル・マリ・ウエーバー「『茶譜』巻-における茶人のネットワーク-ネットワーク分析による寛永文化の時代区分論の試み-」、谷晃「『茶譜』論考(一)」の論文7本、「『茶譜』人名索引」、注釈扁として『茶譜』巻-注釈を掲載した。本研究の取り組みは、これを基盤として、他のさまざまな分野の研究への進展とコラボレーションの可能性を秘めている。第一に大東文化大学東洋研究所において「茶の湯と座の文芸」研究班をたちあげ、国会図書館本を底本とし、東洋研究所刊行物として継続して『茶譜』全18巻の注釈研究を完成させるとともに、第二に情報学の分野からは、『茶譜』データベースの作成に着手するとともに、相田満が手がけてきたシーソラスとのコラボレーション、第三に建築学の分野からは、矢ヶ崎善太郎を中心として、『茶譜』の寸法を忠実に復原した茶室建築の画像化を予定している。