著者
松野 太郎 山岬 正紀 林 祥介
出版者
東京大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1986

この研究の当初目的は、対流雲の2次元数値モデルを用いて数値シミュレーションを行い、集中豪雨をもたらすような中小規模気象システムの予測可能性を検討することであった。ところが、昨年度までの研究によって完成したつもりの対流雲モデルに、いくつかの欠点のあることがわかり、このまゝで実験を行っても所期の目的を達成し得るような実験を行い得るとは限らないことがわかり、計画を変更して今年度はモデルの改良に力を注ぐことにした。問題と、それについての研究実施経過は次の通りである。(1)原モデルでは、雲水量・雨水量の移流を計算するのに、2次の中央差分式を用いていた。この方式は、簡単で計算効率はよいのだが、差分式としての精度は余り良くない。これまでの結果を詳細に検討したところ、差分誤差のため、マイナスの雨が形成されることがあることがわかった。これは許容できない誤差なので、差分式をより良いものにする検討を行った。計算量の制約を考慮に入れて、種々の方式を検討し、実際にプログラムに組み入れてチェックを行った。その結果4次の差分式で保存則をみたす方式が適当であるとわかった。(2)原モデルでは、雲物理過程として氷晶を含まない「暖かい雨」の過程のみを取り扱っていた。このモデルでも集中豪雨の原因となる対流雲の組織化は一応再現されていた。しかし詳しい検討の結果、本当は上層の絹雲(氷晶雲)のかなとこ状のひろがり(アンビル)によって広域に降水がもたらされ、近接する対流雲セルの振舞いに影響を与える点が重要であり、この過程を含まいモデルでは現実の雲のモデルとして不十分であることがわかった。そこで、氷晶、雪片、あられという3種の固体降水要素を新たに変数とし、その間の変換を含む雲物理過程のスキームを新たに開発しモデルに取り入れた。
著者
那須野 智江 山岬 正紀
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.907-924, 1997-08-25
参考文献数
73
被引用文献数
3

熱帯低気圧のレインバンドを構成するメソスケールの対流に対する地表摩擦の効果を調べるため、軸対称の非静力学モデルを用いて数値実験を行った。風速の回転成分が余り強くない時期(10ms^<-1>以下)には個々のメソスケール対流の時間スケールは2〜3時間であるが、回転風速が強まり地表摩擦による吹き込みが非常に強くなると、メソスケール対流の時間スケールは長くなる(Yamasaki, 1983)。数値実験では11〜12時間の時間スケールをもったメソスケール対流が繰り返し現れた。2〜3時間の時間スケールを持つ対流とは対照的に、この長い時間スケールを持つ対流は、冷却したダウンドラフトに伴う吹き出しにより下層の収束域が外向きに遠ざけられることによっては消滅しなかった。むしろこの対流は、地表摩擦による吹き込みが強くなることによって、下層の収束域が中心向きに移動した時に消滅した。即ち、雲が外に傾くために、降水が下層の吹き込み側で起こり、暖湿な空気が雲の下層に到達するのを妨げていた。この時新しい対流が元の対流の外側に形成された。この長い時間スケールを持つ対流の構造, 時間変化, メカニズムについて詳しく論ずる。
著者
山岬 正紀
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、申請者がこれまでに開発してきた数値モデルを基にして、熱帯低気圧の発生のメカニズムをも従来より適切に表現できるようにモデルを改善し、また熱帯低気圧の発生過程をより深く理解するための数値実験を行った。とくに改善のポイントとしては、このモデルではメソスケールに組織化した対流をあらわに表現していることが特徴であるが、その中で用いている積雲対流スケールのパラメター化の方式において、放出される熱の鉛直分布や雲の微物理過程の効果の取り入れ方を改善することによって、メソスケールに組織化した雲の振舞いを改善することができた。この改善にあたっては、計算時間をできるだけ有効に使うために、非静力学2次元モデルも併用し、対流の組織化のメカニズムなど問題の本質を理解しつつ、その結果を3次元モデルに組み込んで現実的な熱帯低気圧のモデルヘと改善した。一方、熱帯低気圧の発生過程のメカニズムの理解については、とくに、メソスケールに組織化された対流がどのような振舞いをすることによって、さらに大きな渦へと組織化するのか、風や温度場のメソスケール構造がどのように変化して、熱帯低気圧の発生に至るのか、など基本的なことを明らかにすることができた。また、熱帯収束帯における熱帯低気圧の発生やケルビン波の中の雲システムがまとまって熱帯低気圧に至る過程についても新たな知見が得られた。