著者
菊池 直子 佐々井 啓 久慈 るみ子 山岸 裕美子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.70, pp.299, 2018

<b>目的</b> 東日本大震災後,被災者の生活支援に関して様々な観点からの研究がなされてきたが,衣生活については十分にし尽くされているとは言い難い.そこで,今回は衣服が独自にもつ精神的機能に着目し,震災から6年以上が過ぎた今だからこそ可能な,衣服に対する「思い」を中心に据えた調査を行った.また,生活再建過程における手芸活動が果たした役割についても調査した.<br><b>方法</b> 釜石市の仮設団地内サポートセンター,および大槌町の仮設団地集会所において衣生活に関するインタビューを行った.インタビューの内容は,震災によって失われた服飾に対する思いや,衣服に対する考え方の変化などである.また,大槌町の「手作り工房おおつち」を対象に,手芸活動の契機や活動による生活の変化などについてインタビューを実施した.実施機関は2017年9月~10月である.<br><b>結果</b> 生活のすべてを流失した被災者の中には,あまりの喪失感から愛着や思いも全くないという回答があった.その一方,流失した衣服を諦められず何度も思い出すという回答もあった.震災から年数が経ち,高齢女性の服装が鮮やかな色調に変化したという回答が複数認められた.明るい気持ちになりたいという思いが服装に表れたと考えられる.また,手芸活動については,支援物資の衣服のお直しや布製の袋物が必要とされたことから始まったこと,徐々にコミュニティが形成されたこと,生きる活力につながったことなどが確認された.
著者
山岸 裕美子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集 61回大会(2009年)
巻号頁・発行日
pp.219, 2009 (Released:2009-09-02)

目的 武芸を業とする職能集団の武士にとって、直垂は歴史を通じて用いられてきた衣服である。鎌倉時代の武士は当時、これを平服から礼服にいたるまで幅広く用いていた。そして中でも白の直垂は、北条氏執権体制下の武家社会においては何らかの特別な衣服となっていたと思われる。そこで、これがどのような意味合いをもって装われたのかについて検討し、考察を行った。方法 鎌倉時代の東国社会の様子について知るための一等史料である「吾妻鏡」をはじめ、当時の記録や物語類などを手がかりとして検討した。さらに、公家社会と武家社会が政治と文化の両面において複雑な駆け引きを行っていた時代背景を考え、武家の特性及び独自の主張についても考慮した。結果 白の衣服が浄衣と照応する形で神事などの場で用いられたことは、武家の白直垂についても同様である。しかし、当時の武家の白直垂にはそれとは異なる別の意味もあることがわかった。つまり、威儀を正した装束として儀礼などの晴の場で着用されるとともに、独自の儀でも盛んに用いられて、武家としての存在を示すものとなった。そして、やがては上級武士の好む装いの一つともなったと考えられる。