著者
山本 勇麓
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.239-248, 1956-04-05 (Released:2010-05-25)
参考文献数
18

錯滴定法とは錯化合物生成反応に基く滴定分析法のことであって,古くからLiebigによって創案され,後にDénegésにより改良されたCN-に対する銀滴定法がある.すなわち,シアンアルカリの中性溶液に硝酸銀を滴下すればシアン化銀の白色沈澱を生ずるが,しんとうすることによってこの沈澱は消失する.これは次式の様に可溶性のシアノ銀錯イオンを生ずるからである.Ag++2CN-→[Ag(CN)2]-更に過剰の硝酸銀を続いて滴下すれば上記反応が終了した後には次式の様にシアン化銀が沈澱し,しんとうすることによっても消失しない白濁を生ずる。この白濁の確認によって終点が指示される.[Ag(CN)2]-+Ag+〓Ag[Ag(CN)2]Dénigésはこれを改良して沃度カリウムを指示薬として用いアンモニア性溶液での滴定を可能にした.該法は簡便的権であり,Cl-,Br-,I-およびCNS-等の共存下においてもCN-のみを定量することが出来る.このように錯化合物の生成を利用する滴定法はLiebig法を以って始めとするが,これから述べようとする“錯滴定法”はG.Schwarzenbachによって創設され且定義された“Die Komplexometrische Titration”のことであって,その特長とするところはいわゆるキレート試薬(Chelating Agent)を用いて滴定することである.すなわちG.Schwarzenbachは1945年以来エチレンジアミン四酢酸を始めとする一群のポリアミノカルボン酸およびポリアミン類について,金属錯塩の生成定数(formation constant)の測定を始めとし金属の滴定法への応用に至るまでの広汎な研究を遂行しているが,これらのキレート試薬に“Komplexon”なる名称を与えているところより,該法を“Komplexometrie”と称するのである.特に,エチレンジアミン四酢酸を滴定剤としエリオクロドムブラックTを指示薬とする水の硬度測定法はSchwarzenbach法として著名であり,その他これらのKomplexonを用いる分析化学的応用の文献は枚挙に邊がないほどである.エチレンジアミン四酢酸(ethylendiamine tetraace-tic acid)(EDTAと略称する)の分析化学への応用については,本邦では早川,上野,山口,水町,本田,坂口等の諸氏により,またその基礎的な部分については音在により,また配位化学については新村,文献については武藤,和田によりすでに詳細且こんせつに紹介されている。また該法の基礎についてはG.Schwarze-nbach自身による総説および箸書もあり,またE.MartellによるReviewがあるので,これらのRe-viewを適当に訳して紹介するのが本講の目的に最も適していると考える.従って,基礎的な面についてのみ記述し,応用的面については省略する.
著者
山本 勇麓 岡本 信子 峠 暎二
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.16, no.10, pp.1034-1039, 1967
被引用文献数
2

水溶液中に微量のテトラフェニルホウ素酸ナトリウム(カリボール)が存在する場合,クプロイン-銅(I)を含むクロロホルム溶液と振り混ぜると,カリボールの陰イオンが有機相へ抽出されることを見いだした.このとき,有機相の吸光度が水相中のカリボール濃度に比例するので,カリボールを比色定量するための諸条件を検討した.その結果,カリボール8×10<SUP>-6</SUP>~4×10<SUP>-5</SUP><I>M</I>の範囲でベールの法則に従うこと,およびpH3.8~5.0の範囲で一定の抽出が得られることがわかった.この原理をカリウムの間接的な比色定量法に適用した.すなわち,カリウム20~200μgの範囲で検量線が得られた.<BR>さらにこの方法を海水あるいはタバコ中のカリウムの定量に適用した.試料溶液に過剰のカリボールを加え,過剰のカリボールをクプロイン-銅(I)キレートによりクロロホルムに抽出して,550mμにおける吸光度を測定する.海水のように塩素イオンを多量に含む試料は陰イオン交換樹脂により前処理したのち本法を適用してよい結果を得た.
著者
山本 勇麓 熊丸 尚宏 林 康久 木村 繁和 深水 清
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.19, no.9, pp.1168-1174, 1970-09-05 (Released:2010-05-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

溶媒抽出に基づくクロム(VI)の新しい吸光光度法を開発した.適量のトリス(1, 10-フェナントロリン)鉄(II)キレート陽イオンが水相に存在するとクロム(VI)が選択的にニトロベンゼンに抽出されることを見いだした. pH 3~4の範囲で金属キレート濃度をクロム(VI)の50倍過剰に保てば一定の抽出が得られた.水相中に存在していたクロム(VI)濃度が62.5μg/25 ml以下の範囲で,抽出相のλmax(516mμ)の吸光度とクロム濃度との間には直線性が成立した.抽出種は微酸性におけるクロム酸イオンの平衡定数から考えて[Fe(phen)32+]・[HCrO4-]2と推定された.抽出相の呈色強度は24時間の放置でもほとんど一定であった. 2.08μg/mlクロムの11試料についての標準偏差は,平均吸光度0.4001に対して0.52%であった.多量の鉄(III)はかなりの負誤差を与えるので,メチルイソブチルケトン-iso酢酸アミル混合溶媒による抽出で鉄(III)を除去する方法を検討した.クロム(III)の酸化には過酸化水素水を用いた.純鉄をマトリックスとしたクロム(III)から得た検量線はやや低いクロムの回収率を示すが,この方法を鉄鋼中のクロムの分析に応用してよい結果を得た.
著者
宗森 信 山本 勇麓 日色 和夫 田中 孝 熊丸 尚宏 林 康久 都甲 仁
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.T19-T23, 1978-05-05

2種類の合成試料水中のヒ素の分析に関する共同実験を行った.参加分析所は12箇所,分析方法はJISK0102-1974に規定されたジエチルジチオカルパミン酸銀-吸光光度法を用い,各分析所では1口2回ずつ3日間で計6回の分析を実施した.試料Aではヒ素含有量の標準値0.0220ppmに対し定量値の総平均値が0.0222ppm,試料Bでは0.0250ppmに対し0.0255ppmであった.試料Aでは定量結果は正確であったが,分析所間のばらつきが比較的大きく,又3箇所の分析所では分析所内平均値が管理限界を越えていた.一方,共存物質が存在する試料Bでは分析所内及び所間のばらつきは小さかったが,量結果に偏りがあった.