著者
河野 憲太郎 樋浦 善敬 山本 興三郎
出版者
Japan Poultry Science Association
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-14, 1971-01-25 (Released:2008-11-12)
参考文献数
18
被引用文献数
3 3

1. 鶏卵の卵黄をLUFT11)の10%アクロレイン0.05Mりん酸緩衝液 (pH 7.4) に5~7日間冷暗所で固定, 3~7μ, 通常5μの凍結切片を作成, スダンIVまたはスダンブラックB-55%アルコール液, 1%ナイルブルーA液, BAKERの酸ヘマティンなどで脂質染色を施し, また切片作成後, HELLY液後固定-アザン染色, ピリジン抽出後 SCHIFF反応 (アクロレイン-SCHIFF 反応) などを行なった。実験鶏に対しあらかじめスダンIVまたはスダンブラックBの飼料中混合給与, または色素のコロイド液の静脈内注射を行ない, 卵黄内に形成される色素の縞によって卵黄球が形成された時期を推定した。色素の縞模様の形から発育中の卵黄内には一種のポテンシャル流を生じるのではないかと考え, 電気的モデル試験を行なった。回路は流体力学で利用されるKOHLRAUSCH橋を用いた。2. 白色卵黄球はラテブラ, ラテブラの頚, パンダー核, および胚盤の周囲の卵黄表層に分布し, 他の部分には黄色卵黄球のみが観察された。ラテブラの中心部から胚盤の隣接部にかけて原始卵黄球が分布し, 胚盤に接近するほど小型化し, 包含物中に空胞を生じ, 遂には小泡の集団のような構造を呈した。3. 白色卵黄球には, 大きな滴状包含物を1個含む3~25μの原始卵黄球から, 多数の微小滴状包含物を含む40μ前後のものまであり, その直径が増加するに伴なって, 包含物は微細化し, かつ数を増す傾向を示した。黄色卵黄球は径30~150μで, 微細な顆粒状包含物を無数に含むが, 部位によっては顆粒がやや粗いものも存在した。両卵黄球の包含物は, その染色性からたんぱく質が主成分で, 少量のりん脂質を含むことを示し, 基質はたんぱく質のほか脂肪の存在を示した。中性脂肪滴は流動的で, その局在が明らかでなかった。両卵黄球間の最大の差は基質のりん脂質の濃慶にあり, 白色卵黄球の基質は酸ヘマティンに対しほとんど陰性か弱陽性であったが, 黄色卵黄球は強陽性を呈した。4. 層状構造はラテブラにおいて常に認められ, 原始的な卵黄球とやや大型の卵黄球とが交互に配列するが, 外層ほど黄色卵黄球の形態に近づく。ラテブラの外側の黄色卵黄球の層では, 少数例を除いて形態や染色性は層状構造を示さなかった。5. 卵黄球間の連続相は原始卵黄球の存在部位でかなり多く, その他の卵黄球の部位ではごく少量であった。その染色性は少量のたんぱく質の存在を示した。6. 卵黄の中層ないし内層のスダン色素の縞模様は, ラテブラの頸の附近で一旦大きく隆起し, 陥凹し, さらにラテブラの頸に沿って小さく隆起する傾向を示した。電気的モデル実験の結果, 高抵抗部に適当な範囲内の抵抗をかけ, その抵抗を絶縁部に接近するほど高めることによって, この模様を近似的に再現し得た。7. 以上の結果を基として, 卵黄球の種類, 成分, 分布, ポテンシャル流の原因などに関し考察を加えた。