- 著者
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山村 清隆
- 出版者
- 一般社団法人電子情報通信学会
- 雑誌
- 電子情報通信学会総合大会講演論文集
- 巻号頁・発行日
- vol.1997, pp.533-534, 1997-03-06
- 被引用文献数
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1
今回, パネル討論「ポストSPICEシミュレータ」のパネリストとしてご指名頂いたが, 光栄に思う反面, 何を話したらよいのか大変困惑してしまった. というのも, 私自身は企業の設計現場に身を置いたことがなく, 大学という環境下で新しい数値解法の開発を楽しんでいる, どちらかというと理論派の研究者のひとりだからである. シミュレータの中の数値解法には関心をもっているが、仕事としてシミュレータを使ったことは一度もない. そのため無知ゆえの思い込みや偏見が入ることを最初にお詫び申し上げたい. 回路は基本的に非線形であり, 非線形は理論と実用の間に大きなギャップの存在する世界である. 理論的に優れたものが実用に結びつくとは限らないし, 理論なしの対処療法だけでは新しいものを産み出すことは不可能である. この両輪のバランスなり架け橋なりが重要な役割を果たす世界と考えてよいだろう. 特にポストSPICEというからには, 新しい理論の導入とそれを実用に結びつける強力な推進力ならびに架け橋が必要となる. 私は大学院時代はあまり実用を意識しない基礎的な研究を行っていたが, 恩師からのたび重なるアドバイスにより, 次第に実用化されるところまでやりたいという意識が強くなっていった. 幸いなことにこの10年間, 企業で実際にLSIの設計に携わっている方々との交流から貴重な刺激を受け, 様々な協力者のお蔭で実用化に成功した研究に接することができた. 本稿では, 理論が実用に結び付いたいくつかの事例と体験談を私が直接 接してきた範囲で紹介し, あわせて大学の立場からポストSPICEに対する雑感を述べさせて頂く.