著者
小藪 明生 山田 真茂留
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.536-551, 2013-03-31 (Released:2014-03-31)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

本稿の目的は, ハイ・カルチャーとの関係性のもとで, ポピュラー・カルチャーの意味をあらためて問い直すことにある. ポピュラー・カルチャーがその内部で制度化や多様化を遂げると, そこから大衆的・対抗的な意味が剥落し, その結果, かつてのハイ・カルチャーのような様相を呈しがちになる. その一方, ハイ・カルチャーが制度的・市場的な力に乗って社会に浸透していくと, それは大衆受けするようになり, ポピュラー・カルチャー寄りの存在と化していく. こうして今日, この2つの間の境界はきわめて曖昧なものとなった.そしてそのハイ=ポピュラー間の分節の稀薄化は, 文化生産ならびに消費の現場では文化的雑食として立ち現れることになる. 本稿では, ミネソタ管弦楽団アーカイヴズの諸資料を用いて, オーケストラ芸術におけるクラシックとポピュラーの関係性を文化生産論的に抉り出すとともに, 社会生活基本調査 (総務省) のデータに直接当たり, 人々の文化的嗜好の現実に迫る作業を行った. これによりあらためて確認されたのは, 文化の生産の場でも消費の場でも雑食性が広く浸透しているという実態にほかならない. ただし文化的雑食と言っても, それは一枚岩的な現象ではけっしてない. 本稿最後では, ポピュラー・カルチャー研究の今後の課題の1つとして, 文化的雑食性の多彩な様相を比較社会学的に見極めていくことの重要性が示唆される.
著者
友枝 敏雄 山田 真茂留
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.567-584, 2005-12-31 (Released:2010-04-23)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

今期社会学教育委員会では, 社会学教育の一環として社会学テキストのありようについて検討してきた.この論文は, この作業をもとにした今号の特集の序論をなすものである.多くの社会学テキストのなかで, とりわけ焦点をあてるのは, 初学者向けの, もしくは概論的なテキストである.まず戦後日本社会の変動を概観すると, そこには個人化の進行という一貫した趨勢が看取される一方で, 「第1の近代」と「第2の近代」との間にそれなりの断層があることが認められる.「第1の近代」においては産業化・都市化・核家族化等が中心であったのに対して, 「第2の近代」では政治領域における新保守主義・新自由主義の台頭, 経済領域における消費社会的状況の先鋭化, 文化領域におけるポストモダンな言語論的・記号論的転回等が顕著になってきたのである.そして社会学テキストも, この社会変動に応じて相貌を大きく変えることとなった.まず, 社会学テキストが扱うべき内容やその範囲が時代によって変わっていったという局面がある.またそれとともに, テキストの形式面でも大きな変化が生起した.かつてのテキストではオーソドックスな概念や理論の伝達が中心的であったわけだが, 今日では読者にとって読みやすい形でのパースペクティブの紹介が主流になってきているのである.社会学テキストは近年, 内容面・形式面の双方にわたって大きな変容をとげている.