著者
森永 睦子 岡本 操 古川 聡子 河口 勝憲 末盛 晋一郎 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.282-289, 2016-05-25 (Released:2016-07-10)
参考文献数
12

救急医療の現場では,意識障害,ショック患者に薬毒物が関与している場合がある。原因検索の一手段として簡易法の薬物スクリーニング検査キットが利用されている。富士レビオ株式会社より国内販売されているINSTANT-VIEW® M-I(以下,INSTANT-VIEW)は覚せい剤(METH),大麻(THC),コカイン系麻薬(COC),ベンゾジアゼピン系(BZD),バルビツール酸系(BAR),三環系抗うつ薬(TCA)の6種類の薬物および薬物代謝産物の同時検出が可能である。また,操作法はワンステップと簡便であり,反応時間が7分と短い。しかし,判定方法がラインの消失をもって陽性となり,汎用の各種イムノクロマトグラフィー法とは反対であるため注意が必要である。健常人尿に各薬物の標準溶液を添加した模擬尿を用いた測定検出限界の検討では,添付書類の10倍以上の濃度でも検出されない薬物が確認された。今後,臨床検体での確認が必要と思われた。また,四環系抗うつ薬,抗精神病薬はTCAに対し交差反応を示した。INSTANT-VIEWを含むイムノクロマトグラフィー法では偽陽性や偽陰性反応を示す可能性があることを十分理解し判定結果を解釈することが重要である。
著者
森永 睦子 古川 聡子 岡本 操 河口 勝憲 辻岡 貴之 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.113-118, 2018-01-25 (Released:2018-01-27)
参考文献数
12

リチウム(以下,Li)は躁うつ病の治療薬として広く利用されており,治療濃度域と中毒濃度域が接近していることから治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring; TDM)の対象薬物である。またLiは腎臓から排泄されるため腎機能が低下すると中毒症状を出現しやすい。今回,当院高度救命救急センターへ意識障害で搬送され,腎機能低下を伴う高Li血症がみられた2症例について報告する。症例1は30歳代,女性で医療に対する精神的不安感から多剤大量服用した患者で,Li推定服用量は12,800 mg/1回である。来院時の血中Li濃度は13.2 mEq/Lと極高値かつ腎機能低下を認めた。持続的血液透析(continuous hemodialysis; CHD)約30時間後の血中Li濃度は1.2 mEq/Lまで低下し,CHD離脱後21時間後の血中Li濃度は0.8 mEq/Lであり,リバウンドを認めることなく第3病日に退院となった。症例2は80歳代,女性でLiの服用に伴い定期的に血中Li濃度を測定し治療域を推移していた患者で,Li服用量は400 mg/dayである。来院時の血中Li濃度は1.8 mEq/Lと高値かつ腎機能低下を認めた。輸液により意識レベルは改善し同日帰宅となった。以降,Liの服用は中止された。当院に意識障害で搬送され,毒劇物解析室に分析依頼があった患者の集計を行った結果,約17年間でLi服用患者は47例でそのうち19例(40.4%)が高値側の中毒域であった。意識障害で搬送された患者にLiの服用歴がある場合,Li中毒,腎機能低下を疑い,さらにLi濃度測定を行うことで診療に貢献できると思われる。