著者
古川 聡子 河口 勝憲 岡崎 希美恵 森永 睦子 大久保 学 辻岡 貴之 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.44-51, 2018-01-25 (Released:2018-01-27)
参考文献数
1

マイクロピペットは検体の分注・希釈,凍結乾燥タイプのキャリブレーターやコントロールの溶解・調整を行う際に使用されている。マイクロピペットは操作が簡単で,素早く指定量を採取できるが,分注精度を保つには基本的な操作方法に準じて使用する必要がある。今回,マイクロピペットの操作方法が分注精度に及ぼす影響の検証および各施設における操作方法の現状把握のためのアンケート調査を行った。マイクロピペット容量規格の選択については,採取する液量がマイクロピペットの全容量に近いマイクロピペットを選択した方が,正確性・再現性ともに良好であった。また,プレウェッティングを行うことで,分注精度が高まることが確認された。分注方法による正確性についてはフォワードピペッティングの方が良好であり,理論値に対してフォワードピペッティングは低め,リバースピペッティングは高めの傾向であった。また,再現性については水ではフォワードピペッティング,血清ではリバースピペッティングの方が良好な結果となった。したがって,基本的にはフォワードピペッティングとし,粘性のある試料で精密度を保ちたい場合はリバースピペッティングとするのが望ましいと考えられる。試料の温度が室温よりも極端に低い場合,分注精度に影響が出ることも確認された。アンケート調査では各施設で操作方法に違いがあることが明らかとなり,今後,各施設における基本的操作方法の順守が望まれる。
著者
古川 聡子 河口 勝憲 岡崎 希美恵 辻岡 貴之 通山 薫 佐々木 環
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.563-568, 2018-07-25 (Released:2018-07-28)
参考文献数
6

2008年にクレアチニン(Cre)から算出した推算glomerular filtration rate: GFR(eGFRcre)が,2012年にはシスタチンC‍(Cys)から算出した推算GFR(eGFRcys)が公表され,推算GFRは臨床現場で簡便な腎機能の指標として活用されている。しかし,しばしばeGFRcreとeGFRcysが乖離する症例に遭遇する。そこで,今回eGFRcreとeGFRcysはどの程度一致するのか,また乖離症例にはどのような特徴があるのかを検証した。全症例(n = 226)での相関関係は回帰式y = 0.92x + 2.44,相関係数r = 0.868と良好な結果であったが,CKD重症度分類のGFR区分におけるeGFRcreとeGFRcysの一致率は55.8%と約半数であった。不一致例はeGFRcreと比較し,eGFRcysの区分が軽い症例と重い症例が同等に存在し,どちらか一方への偏りは認めなかった。さらにGFR区分が2段階以上異なる症例は8症例で全体の3.5%であった。eGFRcys/eGFRcre比の比較では,その比が最も1.00に近かった60歳代を基準とすると,若年では高く,高齢では低くなる傾向を認めた。また,eGFRcys/eGFRcre比は体表面積が大きいほど,血清アルブミンが高値なほど高くなる傾向を示し,高度蛋白尿では低値となった。腎機能評価においては,各推算式の特徴や乖離要因を把握した上で使用することが重要である。
著者
河口 勝憲 市原 清志
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.143-154, 2015-03-25 (Released:2015-05-10)
参考文献数
17

臨床検査データは臨床の現場で病気の診断,治療経過のモニター,予後判定に利用される。しかし,病気以前に患者の身体的特性や採血条件で測定値が変化したり,測定技術上の問題で測定値が動いた可能性を常に念頭に置く必要がある。測定値が変化する原因を分類すると,病態変動,生理的変動,測定技術変動に分けて考えることができる。生理的変動は,さらに個人の年齢,性,環境,生活習慣,遺伝的因子などに左右される個体間変動と,同じ個体内でも検体採取前の体位や活動度,採血時間などで変化する個体内変動に分けてとらえることができる。本稿では個体間変動として年齢,性差,過食・肥満,喫煙習慣,飲酒習慣を,個体内変動として体位,運動の影響,日内リズム,喫煙の短期的影響,飲酒の短期的影響について変動機序とその影響を受けやすい検査項目を系統的に整理して記載する。検査データを正しく判定するには,これらさまざまな生理的変動を熟知しておくことが重要である。
著者
上杉 里枝 河口 勝憲 河口 豊 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.358-363, 2019-04-25 (Released:2019-04-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1

いまだ結核患者の多い本邦にとってインターフェロンγ遊離試験(interferon-gamma release assays; IGRA)は結核診断に欠くことのできない検査となっている。IGRAのひとつであるT-SPOTの約4年間の結果解析を行い,臨床的有用性を検証した。対象1,744例の判定結果は陰性90.8%,判定保留1.9%,陽性5.8%,判定不可1.5%であった。各判定の平均年齢は陽性が66.9歳と最も高齢であった。T-SPOTの判定分布をQFTの判定分布と比較すると,陰性か陽性の明確な判定結果が多いことが確認された。QFTが判定保留あるいは判定不可であった後,次の検査でT-SPOTが実施された症例を検証したところ,QFTの判定保留から次回T-SPOTでは約80%が陰性となり,QFTの判定不可から次回T-SPOTでは約95%が陰性となった。T-SPOTと同時期に実施された抗酸菌検査との比較を行った結果,T-SPOT陽性の58例からは,結核菌が12例,非結核性抗酸菌が2例検出された。また,T-SPOT陰性の294例中3例から結核菌が検出され,2例はステロイド剤を服用していた。T-SPOTは判定保留や判定不可が少なく,陰性,陽性の明確な結果を得られることが多いため,結核を早期に診断することが可能である。しかし,結核菌陽性症例での陰性判定が存在することを理解したうえでの判断が必要である。
著者
森永 睦子 岡本 操 古川 聡子 河口 勝憲 末盛 晋一郎 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.282-289, 2016-05-25 (Released:2016-07-10)
参考文献数
12

救急医療の現場では,意識障害,ショック患者に薬毒物が関与している場合がある。原因検索の一手段として簡易法の薬物スクリーニング検査キットが利用されている。富士レビオ株式会社より国内販売されているINSTANT-VIEW® M-I(以下,INSTANT-VIEW)は覚せい剤(METH),大麻(THC),コカイン系麻薬(COC),ベンゾジアゼピン系(BZD),バルビツール酸系(BAR),三環系抗うつ薬(TCA)の6種類の薬物および薬物代謝産物の同時検出が可能である。また,操作法はワンステップと簡便であり,反応時間が7分と短い。しかし,判定方法がラインの消失をもって陽性となり,汎用の各種イムノクロマトグラフィー法とは反対であるため注意が必要である。健常人尿に各薬物の標準溶液を添加した模擬尿を用いた測定検出限界の検討では,添付書類の10倍以上の濃度でも検出されない薬物が確認された。今後,臨床検体での確認が必要と思われた。また,四環系抗うつ薬,抗精神病薬はTCAに対し交差反応を示した。INSTANT-VIEWを含むイムノクロマトグラフィー法では偽陽性や偽陰性反応を示す可能性があることを十分理解し判定結果を解釈することが重要である。
著者
森永 睦子 古川 聡子 岡本 操 河口 勝憲 辻岡 貴之 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.113-118, 2018-01-25 (Released:2018-01-27)
参考文献数
12

リチウム(以下,Li)は躁うつ病の治療薬として広く利用されており,治療濃度域と中毒濃度域が接近していることから治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring; TDM)の対象薬物である。またLiは腎臓から排泄されるため腎機能が低下すると中毒症状を出現しやすい。今回,当院高度救命救急センターへ意識障害で搬送され,腎機能低下を伴う高Li血症がみられた2症例について報告する。症例1は30歳代,女性で医療に対する精神的不安感から多剤大量服用した患者で,Li推定服用量は12,800 mg/1回である。来院時の血中Li濃度は13.2 mEq/Lと極高値かつ腎機能低下を認めた。持続的血液透析(continuous hemodialysis; CHD)約30時間後の血中Li濃度は1.2 mEq/Lまで低下し,CHD離脱後21時間後の血中Li濃度は0.8 mEq/Lであり,リバウンドを認めることなく第3病日に退院となった。症例2は80歳代,女性でLiの服用に伴い定期的に血中Li濃度を測定し治療域を推移していた患者で,Li服用量は400 mg/dayである。来院時の血中Li濃度は1.8 mEq/Lと高値かつ腎機能低下を認めた。輸液により意識レベルは改善し同日帰宅となった。以降,Liの服用は中止された。当院に意識障害で搬送され,毒劇物解析室に分析依頼があった患者の集計を行った結果,約17年間でLi服用患者は47例でそのうち19例(40.4%)が高値側の中毒域であった。意識障害で搬送された患者にLiの服用歴がある場合,Li中毒,腎機能低下を疑い,さらにLi濃度測定を行うことで診療に貢献できると思われる。
著者
古川 聡子 河口 勝憲 加瀬野 節子 前田 ひとみ 末盛 晋一郎 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.648-654, 2014-09-25 (Released:2014-11-10)
参考文献数
3
被引用文献数
1

溶血・混濁は測定値に影響を与えるため,血清情報(溶血・混濁)を臨床側に報告することは病態把握および検査値を解釈する上で必要である.しかし,血清情報に関しては各施設任意の判定基準を採用しており,標準化が行われていないのが現状である.そこで,現状把握のため調査を実施した.調査内容はアンケート調査,溶血・混濁の希釈系列を用いたコメント付加開始点の調査(岡山県近隣施設の施設間差と目視判定の個人差)および測定値への影響について行った.アンケート調査では,約7割の施設が自動分析装置で血清情報の測定を行っており,報告形態は定性値の軽度(弱または微)・中度・強度の3段階が最も多く使用されていた.溶血のコメント付加開始点の調査ではヘモグロビン(Hb)濃度40~50 mg/dLでの設定が多く,Hb濃度50 mg/dLにおける測定値の変化はLD:53.0 U/L(+29.7%),K:0.16 mEq/L(+4.2%),AST:2.5 U/L(+10.2%)の上昇であり,その他の項目では影響(変化率:4%未満)は認めなかった.混濁のコメント付加開始点はイントラリポス濃度0.02%前後の設定が多く,イントラリポス濃度0.02%では測定値の変化は認められなかった(変化率:4%未満).また,溶血・混濁のコメント付加開始点は施設間で異なり,目視判定も個人の認識に差があることが明らかとなった.
著者
古川 聡子 河口 勝憲 前田 ひとみ 加瀬野 節子 小野 公美 上杉 里枝 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.332-336, 2016-05-25 (Released:2016-07-10)
参考文献数
6

急性冠症候群の診断に有用な検査項目として,ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)とトロポニンTがある。今回,H-FABP定性迅速検出キット「ラピチェック® H-FABP:ラピチェック」(DSファーマバイオメディカル)とH-FABP定量迅速検出キット「ラピッドチップ® H-FABP:ラピッドチップ」(積水メディカル)およびトロポニンT定性迅速検出キット「トロップTセンシティブ®:トロップT」(ロシュ・ダイアグノスティックス)の比較検討を行い,それぞれの検査キットの特徴を評価した。3キットともに陽性を示した疾患は急性心筋梗塞,狭心症,心不全,大動脈乖離,たこつぼ型心筋症などであった。H-FABPとトロポニンTの判定が異なった症例はすべてH-FABP:陽性,トロポニンT:陰性であった。H-FABPのみが陽性を示した中には,急性心筋梗塞の超急性期の症例,腎機能低下によりH-FABP濃度が上昇している可能性がある症例,骨格筋由来のH-FABPが血中に逸脱した症例などが確認された。さらに,H-FABPのみが陽性の中には心電図や心エコー上で治療介入を要する明らかな所見が確認されなかった症例(意識消失やヘルニア)も含まれていた。また,H-FABPのうちラピチェックのみが陽性であった2例は,めまい,不安障害の症例であり,ラピッドチップの定量値はそれぞれ5.5 ng/mL,5.0 ng/mLと陰性であった。これらの症例における,H-FABP上昇の可能性は低く,ラピチェックの偽陽性であることが示唆された。それぞれの心筋マーカー迅速キットが持つ特徴を理解し,使用することが必要である。