著者
岡田 信彦
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.27-35, 2010 (Released:2010-09-29)
参考文献数
45
被引用文献数
1

細菌は、増殖の定常期状態やアミノ酸・糖などの栄養が枯渇した環境あるいは酸化的ストレスなどのストレス環境下では、緊縮応答 (stringent response) によってこれらの環境変化に適応し、生存を可能にする。緊縮応答時には、細胞内にguanosine-3,5-tetraphosphate(ppGpp)が蓄積し、これが種々の遺伝子の転写活性を調節する遺伝子発現 mediatorとして機能する。大腸菌において、ppGpp は RNA合成の抑制および定常期シグマ因子(RpoS)の細胞内蓄積を促進し、結果として細胞内の代謝やDNA合成を抑制する。大腸菌や Salmonellaでは、ppGpp は2つの遺伝子、relA および spoT にコードされる ppGpp 合成酵素により合成される。Salmonella のように宿主細胞内で増殖できる細胞内寄生細菌にとって、宿主細胞内環境は栄養分が制限されるだけでなく、生体防御反応による種々のストレスも加わり、生存に不利な環境条件であることから、緊縮応答は、細胞内環境に適応するために重要な応答機構として機能するものと予想される。本稿では、ネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)において、ppGpp により遺伝子発現調節される緊縮応答タンパク質をプロテオーム解析により網羅的に同定し、さらに、ppGppに発現制御される新規病原因子を同定したので紹介する。
著者
檀原 宏文 岡田 信彦 羽田 健
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

Salmonellaの上皮細胞侵入性は、本菌が感染を成立させるための重要なビルレンス形質の一つである。本研究では、トランスロケーターとしてのSipCの疎水性アミノ酸領域の機能発現に対する重要性を明らかにするとともに、変異型SipCを利用したワクチン開発の可能性について検討し、以下の結果を得た。1)S.Typhimurium sipC変異株に野生型SipCを発現するプラスミドまたはSipC疎水性アミノ酸領域を欠失した変異SipCを発現するプラスミドを形質転換すると、野生型SipCではビルレンス形質を回復したが、変異SipCではビルレンス形質を回復することができなかった。2)疎水性アミノ酸領域での溶血活性に関与する機能的なアミノ酸を、PCRを用いたランダム変異導入法によって分離同定し、得られた点変異型SipC-S165Pを用いて、ビルレンス形質への影響を明らかにしたところ、Sipc-Sl65Pは、sipC変異株のビルレンス形質を回復できなかった。3)精製したSipC-Sl65P-FLAGを、HeLa細胞の培養液中に加え、共焦点顕微鏡で観察したところ、SipC-S165P-FLAGの細胞膜への挿入まみられなかった。次に、pFLAG-sipCおよびpFALG-sipC-S165Pを発現するSalmonella野生株を、Hela細胞に感染させ、宿主細胞内に挿入されたsipCの局在を調べた結果、sipc-FLAGは、細胞膜画分に局在するのに対して、sipC-s165P-FLAGの膜画分への局在はみられなかった。4)ストレプトマイシン処理マウス(C57BL/6,♀,8週齢)を用いて、各変異のSipC機能への影響をin vivoで検討した結果、野生型SipCを相補したsipC変異株のみ、野生株と同様に盲腸粘膜での炎症反応が惹起された。以上のことから、SipCの疎水性アミノ酸領域はSipCの機能発現に重要であり、また、165番目のセリンは、SipCが宿主細胞膜へ挿入するために必要なアミノ酸であることを明らかにした。現在、ストレプトマイシン処理マウスを用いた感染モデルを用いて、Sipc-S165Pがワクチン成分として感染防御機能を持つかどうか検討中である。
著者
岡田 信彦 菊池 雄士 壇原 宏文
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

ブタコレラ菌(Salmonella enterica serovar Choleraesuis)の細胞侵入による血管内皮細胞の宿主反応を明らかにし、引き続き起こる局所炎症反応についての分子メカニズムを明確化することを目的とし、次のことを行った。(1)ブタコレラ菌の血管内皮細胞への細胞侵入能について、ブタコレラ菌野生株(RF-1)およびその細胞侵入能変異株(invA変異株)を用いて、血管内皮細胞(HUVEC細胞)および上皮細胞(HEp-2細胞)に対する細胞侵入性について検討した。RF-1株はHEp-2細胞およびHUVEC細胞の両細胞に対して同様の細胞侵入性を示したのに対して、invA変異株はHEp-2細胞およびHUVEC細胞への細胞侵入能は野生株に比べて明らかに減少していた。(2)ブタコレラ菌の血管内皮細胞への侵入に伴う炎症性サイトカインIL-1α, IL-1β, IL-6,IL-8およびTNF-α)の産生をRT-PCR法を用いたmRNAの定量化を行い、野生株感染血管内皮細胞とinvA変異株感染血管内皮細胞とそれぞれ比較した。その結果、野生株感染血管内皮細胞のみでIL-8の発現が上昇していた。(3)ブタコレラ菌の血管内皮細胞への侵入による接着分子の細胞表面への発現を蛍光抗体法を用いて観察することを試みた。Green fluorescent protein(GFP)を発現するブタコレラ菌野生株を血管内皮細胞に感染させ、各接着分子の単クロン抗体を用いて蛍光染色した。ブタコレラ菌感染5時間後の血管内皮細胞において接着分子、E-selectin(CD62E)、ICAM-1(CD54)およびVCAM-1(CD106)で細胞表面への発現がみられた。