著者
菱田 啓介 中島 里菜 松井 治幸 植 優衣 田村 友香 倉田 裕美 岡田 悠子
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.23-28, 2022 (Released:2022-04-09)
参考文献数
15

低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬は、慢性腎臓病の合併症である腎性貧血を治療する新しい選択肢であり、実臨床での使用が増加すると考えられるが、副作用についてのデータ集積は十分とはいえない。ロキサデュスタットでは甲状腺刺激ホルモン(TSH)減少が報告されているが、ダプロデュスタットでは甲状腺機能低下症が報告されており、HIF-PH阻害薬の使用による甲状腺機能への影響については明らかではない。そこで本研究では、ロキサデュスタット及びダプロデュスタットによるTSH減少作用について検討を行った。2021年2月から2021年7月に洛和会音羽記念病院でロキサデュスタットまたはダプロデュスタットを開始された維持血液透析患者のうち、開始前210日以内のTSH測定で基準値内かつ開始後もTSHが測定された者を対象として、後ろ向き解析を行った。ロキサデュスタット群9名のうち8名、ダプロデュスタット群12名のうち1名で基準値未満へのTSH減少が観察された。投与前後のTSH変化量はそれぞれ、-2.009 μIU/mL(95% CI = -3.181 to -0.837 μIU/mL; P = 0.004)及び+ 0.086 μIU/mL(95% CI = -0.560 to 0.732 μIU/mL; P = 0.775)であった。また、ロキサデュスタット群ではTSHが基準値下限の10分の1未満となるTSH著減も2名観察された。ロキサデュスタット投与により基準値未満へのTSH減少が認められた患者のうち2名がダプロデュスタットに変更となり、それぞれ13日後・15日後にTSHが基準値内へ改善した。HIF-PH阻害薬であるロキサデュスタットでは高率にTSH減少が発現することが明らかとなり、基準値下限10分の1未満まで著減する患者も観察されたため定期的な甲状腺関連の検査値モニタリングが必要と考えられた。TSH減少は薬剤固有の作用であることが示唆され、HIF-PH阻害薬間での変更によって腎性貧血治療の継続が可能であると考えられた。
著者
星野 達二 北村 幸子 大竹 紀子 須賀 真美 岡田 悠子 宮本 和尚 西村 淳一 高岡 亜妃 今村 裕子 山田 曜子 北 正人 今井 幸弘
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.241-247, 2010 (Released:2010-09-25)
参考文献数
18

最近,病理解剖で診断された先天性トキソプラズマ症胎児死亡の1例を経験したので,その臨床経過を報告する.患者は28歳の初妊婦である.妊娠15週で胎内死亡と診断された.超音波での胎児計測の結果から在胎期間は14週と推定した.胎内死亡の原因究明のため,剖検,胎盤染色体検査,抗リン脂質抗体検査などを行った.剖検の肉眼所見では,体重50g,体長12cmの女児で胎児,胎盤,臍帯に著変を認めなかった.胎盤染色体検査は46,XXで染色体異常は認められなかった.抗リン脂質抗体検査には著変が認められなかった.病理組織学的検査では,胎盤,心臓,副腎,脳にトキソプラズマ嚢子を認め,先天性トキソプラズマ症による胎内死亡と診断された.妊娠12週のトキソプラズマ抗体 IHA(基準値:160未満)は2560.死産後のトキソプラズマ抗体は10240以上.トキソプラズマIgG EIA(基準値:6未満)は5900.トキソプラズマIgM EIA(基準値:0.8未満)は2.3であった.妊娠時の初感染による胎内死亡と考えられた.感染原因としては,妊娠中に3回苺狩りに行ったことと,焼肉店に1回行ったことが可能性として考えられた.厚生労働省の人口動態統計と日本病理学会の剖検輯報から胎内死亡した先天性トキソプラズマ症児の頻度を計算した.1974年から2007年までの34年間の報告された先天性トキソプラズマ症児は5人である.この期間の死産数は1,982,839であり,剖検数は22,827であるので,年間のトキソプラズマ症の死産児数は,5×(この期間の死産数:1,982,839)÷(この期間の剖検数:22,827)÷34≒13人となる.死産児の剖検率は,22,827÷1,982,839≒0.0115(1.15%)となる.産科医としては,先天性トキソプラズマ症に十分な注意を払うことが必要である.〔産婦の進歩62(3):241-247,2010(平成22年8月)〕