著者
吉村 元 今井 幸弘 別府 美奈子 尾原 信行 小林 潤也 葛谷 聡 山上 宏 川本 未知 幸原 伸夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.713-720, 2008 (Released:2008-12-01)
参考文献数
29
被引用文献数
4 7

症例は76歳男性である.インフルエンザA型感染症発症直後に高度の意識障害を呈し,その後急激にDICやショック,多臓器不全も合併した.インフルエンザ脳症(IAE)と診断し,オセルタミビル投与,ステロイドパルス療法を施行するも効果無く,発症から24時間強で死亡した.剖検では大脳に著明な浮腫とアメーバ様グリアのびまん性増加をみとめたが,炎症細胞浸潤は無かった.また,インフルエンザウイルスA・H3香港型が剖検肺から分離され,保存血清中のIL-6は35,800pg/mlと著明高値であった.本症例の臨床経過,検査所見,病理所見は小児IAE典型例と同様であり,成人でも小児と共通した病態機序でIAEをきたしうる.
著者
星野 達二 北村 幸子 大竹 紀子 須賀 真美 岡田 悠子 宮本 和尚 西村 淳一 高岡 亜妃 今村 裕子 山田 曜子 北 正人 今井 幸弘
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.241-247, 2010 (Released:2010-09-25)
参考文献数
18

最近,病理解剖で診断された先天性トキソプラズマ症胎児死亡の1例を経験したので,その臨床経過を報告する.患者は28歳の初妊婦である.妊娠15週で胎内死亡と診断された.超音波での胎児計測の結果から在胎期間は14週と推定した.胎内死亡の原因究明のため,剖検,胎盤染色体検査,抗リン脂質抗体検査などを行った.剖検の肉眼所見では,体重50g,体長12cmの女児で胎児,胎盤,臍帯に著変を認めなかった.胎盤染色体検査は46,XXで染色体異常は認められなかった.抗リン脂質抗体検査には著変が認められなかった.病理組織学的検査では,胎盤,心臓,副腎,脳にトキソプラズマ嚢子を認め,先天性トキソプラズマ症による胎内死亡と診断された.妊娠12週のトキソプラズマ抗体 IHA(基準値:160未満)は2560.死産後のトキソプラズマ抗体は10240以上.トキソプラズマIgG EIA(基準値:6未満)は5900.トキソプラズマIgM EIA(基準値:0.8未満)は2.3であった.妊娠時の初感染による胎内死亡と考えられた.感染原因としては,妊娠中に3回苺狩りに行ったことと,焼肉店に1回行ったことが可能性として考えられた.厚生労働省の人口動態統計と日本病理学会の剖検輯報から胎内死亡した先天性トキソプラズマ症児の頻度を計算した.1974年から2007年までの34年間の報告された先天性トキソプラズマ症児は5人である.この期間の死産数は1,982,839であり,剖検数は22,827であるので,年間のトキソプラズマ症の死産児数は,5×(この期間の死産数:1,982,839)÷(この期間の剖検数:22,827)÷34≒13人となる.死産児の剖検率は,22,827÷1,982,839≒0.0115(1.15%)となる.産科医としては,先天性トキソプラズマ症に十分な注意を払うことが必要である.〔産婦の進歩62(3):241-247,2010(平成22年8月)〕
著者
南出 竜典 和田 将弥 谷口 洋平 福島 政司 森田 周子 占野 尚人 井上 聡子 鄭 浩柄 杉之下 与志樹 今井 幸弘 猪熊 哲朗
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.150-157, 2016-04-25 (Released:2016-04-29)
参考文献数
13

症例は19歳女性.発汗過多,高血圧を主訴に当院を受診し,精査の結果両側副腎褐色細胞腫だけでなく多発する膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor;PNET)を認めた.多臓器腫瘍,家族歴を踏まえてvon Hippel-Lindau病(VHL病)の診断に至った.膵病変に対しては,膵機能温存の観点から膵全摘を回避し,膵体尾部切除術,膵頭部腫瘍核出術を施行した.病理組織学的検討では,切除標本内に術前に指摘しえたPNETに加えて複数のPNETが認められたが,これらは病変サイズが小さいことからも診断困難であったと考えられる.VHL病においては,膵病変を含めて同時性・異時性に腫瘍が多発しうることに留意し,慎重な術式選択,経過観察が重要である.