- 著者
-
岡田 龍一
- 出版者
- 日本比較生理生化学会
- 雑誌
- 比較生理生化学 (ISSN:09163786)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, no.3, pp.121-130, 2012-09-20 (Released:2012-10-17)
- 参考文献数
- 60
ミツバチの採餌行動において,良質な餌場を発見したミツバチは巣に戻ってから翅を振動させながら尻を振って歩く。Karl von Frischは,この尻振りダンスと呼ばれる行動が巣の仲間に餌場の位置を伝えるコミュニケーションであることを発見した。尻振りダンスによってミツバチコロニーは良質の餌場を効率よく訪問し,急な採餌環境の変化であっても迅速に反応することができる。この行動に関する研究は,Frischが1973年にノーベル賞生理学医学賞を受賞した後40年経ても,今なお論文が発表され続けている「生きた」研究分野である。本稿では尻振りダンスに関する行動観察および実験,ダンス情報の符号化と復号化に関する神経メカニズム,コンピュータによる採餌行動のシミュレーションなどを,筆者らの研究を中心に情報の伝達に着目して,尻振りダンスに関してどれくらい明らかになっているのか,どのように今,解釈されているのかを紹介する。最後には尻振りダンスに関する最新のトピックスを挙げる。本稿によって,生態学的にも,行動学的にも,社会生物学的にも,進化学的にも,神経行動学的にも興味深い,この行動に多くの方が興味を持ってもらえれば幸いである。