- 著者
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水波 誠
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 特定領域研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1999
1)嗅覚学習訓練法の開発:コオロギおよびゴキブリにおいて、それぞれ4種類の異なる嗅覚学習訓練法の開発に成功し、研究の目的に応じて使い分けることが可能となった。2)ゴキブリとコオロギの嗅覚学習能力の解析:ゴキブリとコオロギがヒトに優るとも劣らない嗅覚学習の能力を持ち、匂い学習の中枢機構の研究材料として適していることが明らかになった。特にコオロギでは、幼虫期に一旦成立した記憶は生涯保持されること、同時に7組の匂いを記憶できること、明暗の状況に応じて異なる匂いを報酬と連合させる状況依存的嗅覚学習の能力があること、が明らかになった。これらは昆虫の嗅覚学習能力について新知見をもたらすものであった。3)キノコ体のNO(一酸化窒素)シグナル伝達系の嗅覚記憶形成への関与:コオロギを材料とした行動薬理学的な研究により、NOシグナル伝達系が匂いの長期記憶の形成に関与することが示唆された。また、NO含有細胞の組織化学的染色により、キノコ体にシグナル伝達系が存在することが示唆され、これが長期記憶の形成を担うものと推察された。4)ゴキブリの脳の基本配線についての研究:ゴキブリの頚部縦連合からの逆行性染色により脳の下降性ニューロンを網羅的に同定した。下降性ニューロンは235対あり、その細胞体は23のクラスターを形成していた。それらの樹状突起の脳内分布の詳細が明らかになり、その結果、脳の感覚中枢から胸部の運動中枢に到る脳内の信号の流れの全体像の推定が初めて可能となった。これらの成果をもとに、昆虫の脳の基本設計についての仮説を提案した。