著者
岩佐 峰雄 的場 梁次
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

Y染色体上のSTR多型による親子鑑定システムの開発の一環として、本年度は特にDYS390の日本人集団におけるアリル頻度を調査した。血縁関係のない日本人117名の血液からChelex-100によりDNAを抽出した。PCR増幅は3ngの鋳型DNAを用い、総量25μlの反応液中で定法に従って行った。用いたプライマーは、P1:5'TATATTTTACATTTTTGGGCC3'およびP2:5'GACAGTAAAATGAACACATTGC3'で、型判定はポリアクリルアミドゲル電気泳動と銀染色によった。また、各アリルの塩基配列は、Dye Terminator Cycle Sequencingキットによった。今回の調査で認められた6種類のアリルの塩基配列は、5-primer(23bp)-27bp-(CTAT)_2-(CTGT)_8-(CTAT)_n-CTG(TCTA)_3-TCAATC-(ATCT)_3-25bp-primer(22bp)-3'であり、CTATの4塩基(アンダーラインで示した)の繰り返し数は8回から13回(即ち、n=8-13)で、各アリルの総塩基数は、8;202bp;9;206bp;10;210bp;11;214bp;12;218bp13;222bpと算出された。CTATの繰り返し数を各アリルの名称とすると、アリルの出現頻度は、8;0.017;9;0.154;10;0.248;11;0.291;12;0.239;13;0.051であり、以前調査したドイツ人集団における成績(8;0.026;9;0.158;10;0.263;11;0.368;12;0.175;13;0.051)との間に有為な差は認められなかった(x^2=5.370,df=5.P>0.05)。一方、DYS389の日本人集団におけるアリルの頻度は、DYS389Iでは、8:0.018;9;0.161;10;0.268;11;0.527;12;0.027であり、DYS389IIでは、23:0.029;24:0.105;0.229;26:0.324;27:0.248;28:0.048;29:0.010;30:0.010であった。Jones(1972)によるDiscrimination powerはDYS389Iでは0.624、DYS389IIでは0.767で、両者のCombined discrimination powerは0.912と算出された。ダイレクトシークエンス法でDYS389アリルの塩基配列を決定しようとすると、判読不可能な個所が複数個所あらわれ、各アリルの塩基配列の全体像を把握することはできなかった。Y染色体上のSTRの法医学実務における応用として、司法解剖得た膣内容からDYS390およびDYS389の検出を試みた。試料とした15例のうち4例でDYS390の増幅が認められ、これらの試料では顕微鏡検査によって精子も確認された。なお、DYS389はいずれの試料でも増幅することができなかった。次に環境変化の影響を検する目的で、加熱処理した歯牙から得た歯髄よりDNAを抽出し、DYS390およびDYS389の検出を試みた。DYS390は、300℃2分の加熱では6例全例で、400℃2分の加熱では7例中1例で増幅可能であった。海中にほぼ1年間放置され、白骨化した遺体の長官骨骨髄のDNAについてDYS390が増幅可能であった。Y染色体上のSTRによる親子鑑定では、父親と男子間のみに限定されるものの、そのシステムは極めて単純化される。即ち、男子の型から父親の型は常に1つに決定されるので、母子結合確率と擬父と同じ遺伝子型の真の父の出現頻度は等しいことから、父権肯定確率=1/(1+擬父の型の遺伝子頻度)として計算されることとなる。
著者
岩佐 峰雄 大谷 勲
出版者
名古屋市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

各種動物唾液および植物抽出液のアミラーゼ活性を測定すると、サルおよび噛歯類動物唾液でヒト唾液に匹敵する活性が、植物抽出液ではわずかな活性が認められた。動物唾液斑および植物抽出液斑について、従来からのアミラーゼ活性検出法であるヨウ素-デンプン反応およびブルースターチ法を実施してみると、ヒト、サル、噛歯類唾液斑は両検査法で陽性を呈し、植物抽出液は、ヨウ素-デンプン反応のみで陽性を呈した。ヒト顎下腺から精製したアミラーゼを家兎に免疫して得た抗アミラーゼ血清をヒト血清と精漿で吸収すると、唾液とのみ反応する唾液特異的抗アミラーゼ血清が得られた。この抗血清はヒト、ニホンザル、カニクイザル唾液と反応し、他の動物唾液や植物抽出液とは反応しなかった。この抗血清をニホンザル唾液で吸収すると、ヒト唾液特異的抗アミラーゼ血清が得られた。唾液特異的抗アミラーゼ血清(ヒト、ニホンザル、カニクイザル唾液と反応するもの)を用いて、希釈唾液および陳旧唾液斑の抽出液を対向流免疫電気泳動法で検査すると、128倍希釈唾液、3週間経過した唾液斑の抽出液で沈降線が認められた。一方、ヒト唾液特異的抗アミラーゼ血清(ヒト唾液と反応し、ニホンザル、カニクイザル唾液と反応しないもの)を用いて同様に検査すると、8倍希釈唾液、1週間経過した唾液斑で沈降線が認められた。以上の成績から、アミラーゼはヒト唾液のみならず動物唾液や植物にも広く分布し、従来からのアミラーゼ活性検出法によってヒト唾液を特異的に検出することは困難である。一方、ヒト唾液特異的抗アミラーゼ血清はヒト唾液とよく反応し、サルも含めた動物唾液や植物抽出液とは反応しないことから、唾液検査において極めて有用であると考えられた。